書写の学習内容の例として-字形は何を学習する?-

部分形からなる字-偏と旁のバランス-


字形の学習内容

 字形の学習要素について、テキストの30ページ「字形要素の系統図」を確認し、その中から点画の組み立て方について見てきました。字形要素について忘れてしまったという人は、もう一度この図を確認しておきましょうか。


・左右
・上下 
・内外

 今日は、その中から部分の組み立て方について、汎用性という視点からポイントを見ていきます。偏や旁など部分形を組み合わせることによる字形の整え方ですね。テキストの図では、次の三点に分けています。これはその構造上の分類といえるでしょう。左右は偏や旁からなる文字、上下は冠とその下の部分からなる文字、内外は構えとその内部からなる文字が該当します。


・部分形の形状
・部分形相互の位置関係
・部分形相互の大きさの関係 

 これに対し、私は部分からなる文字の組み立て方と整え方について、そのポイントからこの三点を上げておきたいと思います。


それでは試し書きを

 さて、それでは始めましょう。前回同様、実際に小学生になったつもりで試し書きをしてもらいましょう

 次の字を、楷書で書いてみて下さい。日常生活の文字の向上ということから、ごく普通に書いてみると良いかも知れませんね。それではどうぞ。



部分形、その字形の問題

 まずこの図を見てください。どちらが読みやすいと感じられるでしょうか。割ときれいに書けているにもかかわらず、読みやすさという視点で見たときに、少々読みにくい感じがするということがあります。この例も、そのように考えられるとではないでしょうか。このくらいわかりやすい例にしてみると、その理由がわかりそうですね。漢字は元々縦書きする中で生まれ、発達してきました。前後の文字との混同を避けるという点から、「上下からなる字」に比べ「左右からなる字」が多いのもうなずけることです。一方、現代は横書きが主となっています。この「左右からなる字」が多いということが今度は欠点となってしまいかねないわけです。ただもちろん読みやすく書くということはできるはずです。

 今みなさんに書いてもらった試し書きの中で、「金」という字は金へんに、「木」という字は「性格」の「格」という字の木へんと関連させて、考えることができます。さて「金」という字を金へんにするとき、「木」という字を木へんにするとき、私たちはどのようなイメージで扁にしているでしょうか? この図は二つのタイプを示しています。それぞれ、右側は<左右対称に幅を狭くするイメージ>です。それに対して左側は、<旁と組み合わされる右部分、特に一画強調部分を切り落とすイメージ>で扁にしています。もう一度、上の図を見直してみてください。一画強調部分を切り落とすイメージで、形作る場合、旁と組み合わせやすくなることがわかると思います。そのことは、旁、すなわち部分形の右部分でも同じ事がいえるはずです。
 それでは、みなさん自身が試し書きした字を確認してみてください。「金銀」は上の図を参考にしましょう。「性格」「紀行」、特に「性格」の「格」の旁の部分、「各」という字の形の取り方、一画強調部分を切り落とすというイメージがわかりますでしょうか? また「紀行」という字の「糸」、これを糸へんにする字形の変化に関しては、大人でもなかなかできていない人が多いように思われます。また主観的に見ると、最近の若い人でぎょうにんべんの形の取り方がうまくいっていない人もいるように思えます。さあ確認してみてください。

 なお、詳しいことは、インターネット「扁旁構造と横書きの問題」を参照して下さい。



大きさと位置の問題

 確認できたら次に進みましょう。次は、部分形相互の大きさと位置のポイントについて考えてみます。この図を見てみてください。

 汎用性という点で、扁と旁の大きさを同じくらいにし、上下の位置を合わせればよい、ということだととても簡単なはずです。ところが残念ながら。この「相」という字のように、大きさそして位置を合わせると、何だかバランスが崩れて見えてしまうことがあります。この字の場合、木へんよりも目の方を少し小さめに、そして上下に隙間を取ってやった方が自然にバランスがそろって見えるようです。  


 この図はある教科書から持ってきました。「研」「細」という字に関しては答えが示されています。そして「現」「価」という字についてはお手本が示されています。このようにお手本が示されていればその形の取り方考えてみることができますね。

  前の時間にもお話ししたとおり、一字種一字種、その特徴を、今回であれば位置と大きさの関係を覚えていくのはとても大変なことです。何せ、左右からなる字は約400字もあるのですから。何とか汎用性のある形で理解できないでしょうか?

 もう一度「相」という字を見直してみてください。木へんは、上下端が縦画の端点になっています。それに対して「目」の方は上下間が横画になっています。「研」という字はどうでしょうか? そうですね、この図のように縦画がその部分の上下端になっている場合は少し大きめ、横画が上下端になっている場合は少し小さめ、という原理が当てはまるようです。また縦画でなくてもその途中に横画が挟まっていても、また斜めの画でもある程度を大きめに書く必要がありそうです。たとえば先の教科書の例では「細」という字がそれに該当します。

 もっとも、位置と大きさのバランスはこれだけで決定されるわけではありません。先ほどの教科書の例では「現」という字を見直してみてください。どうでしょうか、この原理には当てはまりそうにありません。この点は注意してせざるを得ませんね。
 ただ、多くの左右からなる文字を、この考え方で整えて書くことができます。


 先ほど試し書きしてもらった文字でいうと「性格」「紀行」の二つの熟語がありますが、これがこの図のようになっているかどうか、自分の字を確認してみてください。なおなぜこのようになるのかという考察については、インターネットの「扁と旁の大きさと位置」を読んでみてください。  441字のバランスをそれぞれ覚えるのと、この原理を覚えておくということとで、効率という点で申し上げるまでもないですよね。もし小学校の教師として左右からなる文字のバランスを教える際にこれを知っているといないとでは、ずいぶん違うのではないでしょうか。これなどが、私が汎用性ということを繰り返しいっている一つの例といえるでしょう。



その他の問題

 その他の問題を見ておきましょう。この図の上の段の「音」や「青」という字を見てみてください。前の時間にお話しした、長さをそろえ一画強調するということを、これら上下からなる字に当てはめてみました。しかし残念ながら、上の段の「音」を「青」も、どちらもなんだか日の部分と月の部分が大きすぎるように感じられます。

 では前の時間にお話しした、長さをそろえ一画強調ということ、このことは上下からなる字には使えないのでしょうか? どうも日や月などは上の横学よりも少し狭くした方がよいようです。これには汎用的な理論というのはないのでしょうか? もう一度、扁と旁からなる字の説明の図を見直してみてください。今度は図を横にしてみたらどうでしょうか。おわかりですか? 日などにくらべ、横画が水平線でできている部分は、少し内側に書いてやるとそろって見えるということのようです。先ほどの理論がここにも応用できそうです。これについても詳しいことは、インターネット「仮説-字形感覚の原理-」を、参照してみてください。

 次は、構えとその内側からなる字をあげてみました。上と下の「南風」という字、なにから違和感はないでしょうか? 私は上の段の「風」という字だけが、なんだか違和感を持って感じられます。どうも「風」という字は、外側の構えよりも内側の部分を少し上にあげて形作ると良いように思われます。これはどうしてでしょう? 南という字は真ん中の縦画が少しくらいはみ出ていても、それほど違和感を感じません。おわかりですね、先ほどの理論と同じように、「南」という字であれば、下部がいずれも縦画であるのに対し、「風」は横画です。だからそこには少し隙間を取ってやると、バランスよく見えるということではないでしょうか。試し書きはしてもらっていませんが、「間」という字の「日」の位置にも応用できるはずです。門構えに比べて、内側の「日」を少し上ぎみに書くと、バランスよく見えるということになります。


その他

 さて、試し書きしてもらった文字の内いくつかの字は、特にポイントを指摘できず残っています。特にこれらの内、「進展」という字のしんにょうなどは、多くの人が苦手な形だと感じているのでhないでしょうか。これなどは、やはり最初は基本となる形を学習しておくべきだと思います。テキストは53ページに載っています。試し書きしたすべての字について、テキストの42ページからです53ページまでを読みつつ、確認していってください。その際にテキストにはいわゆるお手本が載っていますが、それを見る前に、必ずポイントとねらいなどを確認し、理解した上で、いわれるお手本と比べてみることをおすすめします。


インターネットでご覧の皆様へ

 さて、インターネットのページで、この授業録をごらんの皆様にお願いいたします。授業ではこの後、実際の小学校での授業風景をビデオで見たりしながら、二十分ぐらい実際の授業について学習をします。残念ながらインターネットでは、ビデオをご覧いただくわけにいきません。どうか、テキストの92ページから103ページまでの部分をもう一度ごらんいただくことで、この授業の趣旨をご理解いただきたいと思います。

 実際の授業では、この後毛筆の実技を行っています。筆記具の持ち方、特に筆の持ち方なども説明しています。それらの詳しいことなどは、「手書き文字の科学」などを参考にしていただけますと幸いです。どうか、これをご覧いただいたご意見をお寄せいただけますと幸いです。