<========================= 選択のページに戻る ========================>

横書きしたとき文字がばらつく?(未発表・草稿)

−扁旁構造と横書きの問題−

押木秀樹   

 決して字が下手だというわけではないのに、なんだか読みにくいという場合があります。一体どうしたわけでしょう? 一つの原因として、次のようなことがあげられます。この図の上下の文字、どちらが見やすく感じられるでしょうか? 多くの人の場合、下の方が見やすいと答えるはずです。もうお分かりかも知れませんが、これは扁と旁の関係にあります。

 次の図をご覧下さい。「金」「木」とも、右側は何となく文字を狭く書くことで扁にしています。左側は、右部分を切り落とすイメージで扁にしています。先ほどの「金銀樹木」の問題は、この扁をどのようなイメージで書いているか、、ということと関係しています。横書きすると、何となく読みにくいという人は、この点をチェックしてみて下さい。もし右のようなイメージだった場合は、左のようになるようにこころがけてみると良いかも知れません。

 さてこのことについて、2点補足をしておきます。まず第一点目は「一画強調」という問題です。楷書は、中央部を引き締めて、左右に伸びる画のうち一つ(もしくは2つ)を長く書くことで<まとまり感>と<美しさ>を見せています。私たちは、文字を見る場合に自然にそのことを学習しているはずです。ところが、上図の右のようなパターンで扁と旁を組み合わせると、字の中央部に「一画強調」する画が残ってしまい、一字としての<まとまり感>を欠いてしまうのです。このような書き方をしている人は少なくなく、小学校における書写指導においてこの点が不足している考えるべきか、また教育現場においてこの認識がないのか、いずれにしても気になるところです。

 二点目は、なぜ今このことが問題になるかです。漢字は非常に合理的な形で進歩して来ました。漢字の中で、「へんとつくり」構造の文字と、「かんむりとその下部」構造の文字とでは前者が多いことは言うまでもありません。漢字は縦書きで進化しましたから、「へんとつくり」構造の左右に組み合わせる文字の方が、一字一字がはっきりして読みやすいはずです。「峰」「峯」の関係もそこにあります。それが、現代のように横書きが多くなると、逆に足を引っ張る結果となってしまいます。そこであらわれるのが、上記のような問題なのです。いまさら「かんむりとその下部」構造の文字を多くするわけにも行きませんから、少なくとも右部分を切り落とすイメージで扁にすることをしっかり学習するしかないかと思います。(1996.12.20)


<========================= 押木研究室に戻る ========================>