カリキュラムの構造と内容


 さて、最初の算数との比較で、書写の学習内容が思い浮かばないということについてお話しました。本当に書写には、思いつくような学習内容がないのでしょうか。いえ、もちろんあります。学習指導要領を参考に、極めておおざっぱにまとめると次のようになります。


 ◎書写の学習内容(概略)
    1.姿勢    2.持ち方   3.用筆(点画) 
    4.筆順    5.字形    6.配列・書式
    7.評価   (8.速さ)

 このように書き出してみると、思い当たる節もあるのではないでしょうか。たとえば、書写の教科書の表紙を開いたところには、たいていの教科書に机にきちんと座った小学生の写真が載っていますし、正しい持ち方なども載っているはずです。これも書写の学習内容だったのですね。もちろん、筆順などは新出漢字の学習の際などに扱われることが多いわけですが、書写の学習内容でもあるわけです。3の用筆というところを見ると、毛筆の話かと思うでしょうが、この場合は硬筆も毛筆も両方含むとを考えるべきだと思います。

 5の字形はイメージしやすいと思います。6の配列・書式は、紙や罫線に応じた文字の大きさや字間・行間の問題に加え、観察記録ですとか手紙などの書式に応じた書き方の学習も含まれると考えます。7の評価というのは、自分自身の字が他人にとって読みやすいかそうではないかといった判断力の育成も必要だということでしょう。なお、8の速さという要素は、中学校の学習内容になります。この速さという要素については、「書写書道2」の中で行書の学習をしますが、そのときにあらためて考えます。なお「書写書道2」の授業を受講するつもりはないが、是非知りたいという人はインターネットの「行書の意味と科学的解釈」を読んでみて下さい。また、書写の目標と内容については、テキスト11ページを参照しておくと良いでしょう。


 このような学習内容があるにもかかわらず、先にお話ししたように、その学習内容をはっきりイメージできていません。その理由はどこにあるでしょうか。


 ○書写の学習内容がイメージできないのはなぜ?  

   ・しっかり指導してもらえなかった。
     ※コンクールの作品などの指導中心だったとか。
   ・指導してもらったが忘れた。
   ・カリキュラムの構造上の問題
   ・手本を中心においた指導

 このようなことが想像されます。手本を中心においた指導という点は、後ほどお話しします。まず、カリキュラムの構造をというのはどういうことでしょうか。

 この図の出典、最初に書かれていたのが何であったか失念してしまいましたが、良く引用されている図です。算数の場合は、数の数え方をしっかり身につけた上で、初めて足し算の勉強に進み、足し算が理解できたことを前提として引き算に進みます。このように階段を一段一段しっかり踏みしめながら上っていくカリキュラムと言えるのではないでしょうか。もし、算数科教育学などを専攻する人で違っていたら是非指摘して下さい。一方、書写の場合は、螺旋構造のカリキュラムと考えられます。

 すなわち、「とりあえず筆記具を持って」「習った筆順に従ってある字を書く」ということは、いきなりできるはずです。しかし、それを繰り返し繰り返し学習することで、より望ましい持ち方を身につけ、汎用の筆順を理解し、整った字を書けるようにする。それが書写の学習、質的な向上といえると思うのです。これは、できる←→できない、ということと違い、質的な向上ですからなかなか把握しづらいですし、一度教えたらそれで良いと思ってしまいがちなのではないかと思います。このような構造をしていることを是非理解しておいてもらいたいと思うのです。

 たとえば、図の持ち方であれば、いわゆる正しい持ち方、すなわちこの図の@の持ち方ができる子供、いえ大人も少なくなっているといわれます。一度持ち方を教え、違っている場合に注意しただけでは、どうしても直らなかったりします。その意味でも、繰り返し学習することが必要なわけですね。なお、持ち方に関しては、テキスト14ページに載っていますので、気になる人はそこを参照してみて下さい。さらに、なぜ@の持ち方が正しいのかといったことについては、「書道概説」の授業もしくはインターネット「筆記具の持ち方と姿勢」を参照してみて下さい。

 もう一つ、例をあげさせて下さい。皆さんは、どのように筆順を学習したでしょうか? おそらく最初のうちは、新出漢字の学習ごとに、場合によっては先生が手をあげて書いてくれるのにあわせ、皆さんも手を大きく上にあげて書いて覚えたのではないでしょうか。その後は、国語の教科書に載っている筆順を参考にしたり、それまで習った文字の筆順を応用して覚えていったことと思います。この筆順の覚え方も、高学年になれば統一的に覚え直しても良いわけです。たとえば、テキスト106ページを開いて下さい。「筆順の原則」というのが載っていますね。こういった原則から学習し直しても良いはずです。繰り返し学習するという意味を、このように考えても良いのです。
 なお、先生が手をあげて子どもたちといっしょに空中で字を書くことを、「空書」といいます。ベテランの先生は、子どもたちの方に向かって左手で、要するに左右対照の字を書いたりします。うまいものですね。空書については、テキスト85ページにも載っています。また、「筆順の原則」がなぜ難しいのか、なぜ筆順を覚えなければならないのかといった点は、これも「書道概説」の授業もしくはインターネット「筆順のあり方について」を参照してみて下さい。


 さて、カリキュラムの構造はわかったとして、どのように繰り返し学習がおこなわれるのかという点について、考えなければなりませんね。これについては、テキストの12ページを開いてみて下さい。横に学年が配置され、縦には書写の学習内容が書かれています。
 たとえば、先ほど例に出した「持ち方」でしたら、第一学年から第三学年まで3回繰り返されていることがわかります。また、中程の「組立て方」の場合、第三学年から第六学年まで繰り返されていますね。繰り返しつつ、質的向上を図っていくという構造が理解できるはずです。もちろん、教科書もこれを元に作成されているはずです。せっかく、これらが生かされた教科書であっても、使う先生がわかっていなければ困りますから、覚えておいて下さいね。

 最初の問題提起のうち、「書写は何を学習しているのか!?」という答えをしたつもりですが、よろしかったでしょうか。