情報化と書写書道教育 その1


 本稿は、1998年11月兵庫教育大学においておこなわれた書写書道教育学会におけるデモンストレーションを元にしています。このデモンストレーションの概略は、『書写書道教育研究』第13号に掲載されました。しかし、あくまで概略にすぎず、具体的な内容を読むことができないだろうかという声にお答えするため、Web化することとなりました。なお、デモンストレーションは、足利市立足利東小学校の柏瀬順一教諭と本稿の著者押木秀樹との共同ですが、本稿の文責は押木にありますことをお断り申し上げておきます。
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1. はじめに

1-1 情報化ということばの意味

 「情報化」ということばが街に氾濫し、近年は教育関係の本や論文を読んでも、必ずといって良いほどこの言葉が目に付きます。そんなにまで、いろいろなことが情報化と関係するのでしょうか? ましてや書写書道教育と情報化とがどう関わるのか、これをお読みのみなさまも、首を傾げるかも知れません。
 たしかに、書写書道と言ったとき毛筆を頭に思い浮かべ、情報化と言ったときコンピュータを思い浮かべると、そこには大きな隔たりがあるように感じます。はたして、どのように関係するのでしょうか?
 一方、毛筆で書いた手紙であっても、それをやりとりする以上、情報の伝達といっても良いはずです。しかし、それではあまりに意味が広すぎますね。「情報化」といった時、用いられる場面でその意味するところも様々です。単純にパソコン・ワープロの普及を指すこともあるでしょうし、産業的な構造の変化を指すこともあるでしょう。本発表においては、「コンピュータや情報通信ネットワークの普及等による変化」という一般的な解釈により、以下の考察を進めることにします。


1-2 コンピュータの発達過程と書写書道

 心を落ち着けて、硯に水を注ぎ墨をする。そんな光景と、コンピュータとは相容れないもののような感じがします。たしかに、コンピュータもその普及当初は、文字をコードによって扱うのみでした。すなわち、「書」という文字はコンピュータにとっては「3D71」という記号であり、私たちにとっても、画面上にドットで表現された不自然な字形でした。書写書道とコンピュータは相反する方向を持っていたかも知れません。

 しかし、その後、コンピュータが扱える情報量は圧倒的な勢いで増えていきました。その結果、パソコンはもちろんインターネットでも、WWWなどで画像が扱えるようになって、書写書道とコンピュータ・インターネットとが、逆のベクトルを示すものではなくなったと考えられます。また、ディスプレイやプリンタの表現能力の向上も付け加えておくべきでしょう。

 このような状態を迎え、そのコンピュータとネットワークを利用しない手はなく、すでに多くの書写書道教育関係者が、この道具を使いつつあります。


 さらに教育課程審議会の答申には、「小学校、中学校及び高等学校を通じ、各教科等の学習においてコンピュータ等の積極的な活用を図ること」という文言が見られるなど、書写書道教育においても、「使える」というだけでなく、「積極的に活用していかなければならない」時期となっているといえましょう。



1-3 情報化と書写書道教育とを考えるための視点

 では、情報化と書写とをどのように考えていけばよいのでしょうか。
 まず、コンピュータやネットワークの普及につれ、手書き文字はどのようになっていくのか、またそれにより書写書道教育はどのように変え変わっていく必要があるのかという点を考える必要があり、それが@です。また授業の中でパソコン等をどう使っていけば良いのかがAです。


 @ は、手で書くことが減るであろうといった単純な推測ばかりでなく、情報機器と手書きとの使い分けなどを踏まえる必要があるということで、書写書道教育の目的論・目標論に関する部分といえます。


 Aは、パソコンやネットワークを書写書道教育の授業の中でどのように用いるかという問題で、こちらは、書写書道教育の方法論に関する部分といえます。

 以下、この二点について、順番に説明しつつ、特にAについて、具体的に紹介します。



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