この部分も簡略化した説明ですので、しっかり勉強したい人は、漢字に関する本を読んで下さいね。
さあ、図を見て下さい。この二つの文字の違いがわかりますか? いきなりバカにしたような問いかけでごめんなさい。そのとおり、左は「字」という字で、右は「学」という字です。もし小学生にこの二つがどう違うのかと問いかけられたら、「字が違うんだよ」と答えるでしょう。
字が違うというのはどういうことでしょう? 伝統的な表現でいえば「形・音・義」がちがうということになります。右の読み方は「じ・あざ」左の読み方は「がく・まなぶ」と読み方が違います。意味は「character/letter」「study/learning/scholarship」と異なり、そして形も上部の点の数と形が異なっています。「形・音・義」がちがうということを頭にとどめておいて下さい。
バカにしたような話で失礼しました。では次はどうでしょう? 何となくわかるんだが、どう説明したらいいんだろう、と思っている人も多いでしょうね。この二つの文字は、形音義のうち、音と義は一緒です。そして皆さんの中には、左の字は「学」という字の旧字体だということを知っている人もいるでしょう。右の字を見て、新字体だという人は少ないと思いますけどね。
では、この二つの字がどう違うのかと聞かれたら、なんと答えたらよいでしょう? そうです、旧字体と現在の字体の差、ですから字体が違うと答えればいいわけですね。
どんどん次にいきましょう。ではこれは? この問いは、高等学校で書道の授業を取っていた人といないとでは、難易度が違いそうです。音と義は(この場合は字体も)一緒ですね。そう、左は楷書体、右は隷書体ですから、この場合、書体が違うということになりますね。
では最後に、この二つはどうでしょう。今度こそ、バカにしているんじゃない?、というお叱りの声が聞こえてきそうです。単に、形が違うだけですね。この二つの字は、字形が違うだけなのです。このように考えてみると、これまで見てきたどれもが「字形が違う」わけです。その中でこの二つは字形のみが違うということになります。
また、書体の違いと「字形のみ」の違いとで どう差があるのか、というところに気がついた人がいるかも知れませんね。この例では、書体の違いを字形のみの違いとは、同レベルの違いになっています。大まかにいって、書体の違いというのは字形の違いのうちある一定のスタイル・様式として確立されたものをいうということになるのです。
まとめると、左図のようになります。また、ひらがなについては、もともと一音にいくつもの字を用いていたものが、明治33年「小学校令施行規則」において、一字一音になっていることも雑学として知っておいてもよいですね。なお、この一音ということについては、国語学の授業などで勉強するとまた少々複雑です。
これらについては、テキストの6ページと8ページにも書かれています。忘れたというときには、このページを参照して下さい。
・康煕字典 約47000字
ということで、約5万字あるということになります。ただし、この数は異体字、すなわち音義がいっしょで字体が違う場合もカウントされていますので、お気をつけ下さい。
さて、私たちは、少なくとも中学校を卒業しているわけですから、その基準からいいますと、小学生は、平成元年3月の小学校学習指導要領小学校6年生の言語事項の欄に、
学年別漢字配当表の第1学年から第6学年までに配当されている漢字を主として、 それらの漢字を読みその大体を書くこととあり、そして学年別漢字配当表というのが添付されています。その数は、
・学年別漢字配当表 1006字
です。ですから、小学校を卒業していれば、およそ1000字を読み、そしてそのだいたいを書けるだろうと思われます。この各学年に配当されている漢字については、テキストの111ページに載っていますから、眺めてみて下さい。
なお、平成10年小学校学習指導要領(平成14年4月1日から施行)の場合、小学校6年生の言語事項の欄に、
第5学年及び第6学年の各学年においては,学年別漢字配当表の当該学年までに 配当されている漢字を読むこと。また,当該学年の前の学年までに配当されてい る漢字を書き,文や文章の中で使うとともに,当該学年に配当されている漢字を 漸次書くようにすること。と変わります。その学年に配当された漢字を読み、そして徐々に書けるようにしつつ、前の学年までの漢字が書けるようにということになります。
ちなみに私たちはどのくらい漢字を書けるかという話をしていました。中学校の場合も見ておくことにしましょうか。平成10年の中学校学習指導要領には、言語事項の欄に、
ア 小学校学習指導要領第2章第1節国語の学年別漢字配当表(以下「学年別漢字配当表」 という。)に示されている漢字に加え,その他の常用漢字のうち250字程度から300字 程度までの漢字を読むこと。 イ 学年別漢字配当表の漢字のうち900字程度の漢字を書き,文や文章の中で使うこと。 ア(第2学年) 第1学年までに学習した常用漢字に加え,その他の常用漢字のうち300 字程度から350字程度までの漢字を読むこと。 (第3学年) 第2学年までに学習した常用漢字に加え,その他の常用漢字の大体を読 むこと。 イ(第2学年) 学年別漢字配当表の漢字のうち 950字程度の漢字を書き,文や文章の中 で使うこと。 (第3学年) 学年別漢字配当表に示されている漢字を書き,文や文章の中で使うこと。とあります。すなわち、学年別漢字配当表に示されている1006字を使うことができ、さらにそれに加え300+350=約650字程度読めるというのがその基準として考えられます。常用漢字表は、昭和56年に出されたもので、
・常用漢字表 1945字
が指定されています。ちなみに、私が小中学生だったころは、
・当用漢字 1850字
が基準となっていました。先に旧字体と現在の字体にふれましたが、その境目は昭和24年に出された当用漢字字体表となっています。
以上の内容については、テキスト9ページに説明があり、学年別漢字配当表が111ページ、常用漢字表が114ページに載っていますので、確認してみましょう。
<通行書体と正書体>
図は歴史順に並べていますが、その中で正書体と通行書体の二列にわけています。これは、中国(時代により日本も含む)の文字の歴史をみたとき、そのほとんどの時代において、正式な場面たとえば石碑などを書く際に用いる書体である篆書・隷書・楷書と、日常の場面たとえば手紙ですとか簡単な書類などを書く際に用いる書体である行書・草書が併用されていたと言うことです。すなわち書きやすさよりも読むことを重視した正書体と、書きやすさを重視した通行書体とが使い分けられていたという事実です。
急いで字を書くと汚くなってしまうという人もいると思いますが、本来ゆっくり書くべき正書体を急いで書いては汚くなっても当然です。この点は、「書写書道2」の授業もしくは「行書の意味と現代的解釈」を参照して下さい。
<楷書の合理性>
極めて簡単な左の図ですが、やはり大まかにみたとき、篆書が完成してから隷書の完成期まで400年、そして隷書の完成期から楷書の完成期までで400年となっています。そして、400年の後、次の書体が完成を見ると前の書体は、印章など特殊な用途でしか使われなくなっています。この周期を考えたら、楷書も西暦1000年頃には次の書体に取って代わられても不思議ではありませんでした。しかし、字体の変化はあるものの、一つのスタイルとしての楷書は未だに使い続けられており、その典型も完成期の唐代のものとなっています。私たちは、途中日本では紆余曲折をへているものの、なんと長い間楷書を用い続けているのでしょう!!
おそらく、楷書には書きやすく・読みやすく・覚えやすいといった適度なバランスの上に成り立った合理性があるからではないかと思います。たとえば、右上がりなどもその一つだと思いますが、これも他の授業もしくはで詳しく説明しています。インターネット上では、「楷書の線の合理性」がその一例といえるでしょう。
<行書をくずすと草書になる?>
少し余談をさせて下さい。書体を覚える時に、楷書をくずすと行書になり(?)、その行書をさらにくずすと草書になる(?)、といったりします。このことは、ある意味では覚えやすいと思うのですが、厳密にいうと正しくない部分があるのです。
まず、楷書より先に行書・草書が完成期を迎えていますし、発生的に見るとこの三者で草書がもっとも早いといえるでしょう。その成立から考えると、楷書をくずして行書ができたというよりも、行書が正書体に影響を与えた結果が楷書だという言い方ができます。日常用いる書体は書きやすいようにどんどん変化し、正式な場面で用いる書体はなかなか変わらず、通行書体が一般に用いられるようになってから、ようやく完成期を迎えるのでしょうね。
もう一つ、字体的に見たとき、楷書と行書は非常に近い関係にあります。行書と楷書の発達期は近かったと考えられます。ところが、草書は、楷書・行書と字体的に異なります。図の「鹿」という字を見ても、上部の構造が異なっています。その意味で、行書をくずしても草書にならないことが多く、字体的に異なりますから楷書を主に用いている私たちが草書を読めないのも当然です。現在、草書が用いられなくなってきているのもこうしたところに原因があるのかも知れません。
<印刷用の書体と教科書体>
さて、「書体」ということばは、これらのようにも用いられますが、そのほかに印刷用の文字についても使われます。ようするに印刷用の文字の字形として、(先に説明したとおり)一つのスタイルとして確立されたものを指します。いわゆる活字といわれるものですが、厳密には現代の印刷にはほとんど活字を用いることはなく写植やコンピュータによる製版ということになりますので、ここでは「活字」ではなく「印刷用の文字」としておきましょう。
たとえば、皆さんご存じの
・明朝体
・ゴシック体
がそれですね。そして、小学校の教科書等には、「教科書体」が用いられることも多いです。教科書体は各社から出されていますが、その元は学習指導要領の学年別漢字配当表を印刷している字形なのです。これが小学校で学習する文字の字体・字形の基本的な形です。残念ながら、書写教育における「文字を書く」という合理性を備えたデザインであるかといいますと残念ながら、そうとも言い切れません。詳しくは「書道概説」の授業もしくはインターネット上では「教科書体フォントの状況及び小学校用コンピュータへの同フォント導入の必要性について」を参照して下さい。
以上の書体についての説明は、テキストの104-105ページにも載っています。ただし、これらも簡略な説明ですので、興味がある人は専門書を見るべきだと思います。阿辻著『漢字学』などもおすすめです。