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口や日の閉じ方(未発表・草稿)

−書きやすさという観点から見ると−

押木秀樹   


という質問をもらうことがあります。この違いは、字としてあっているか間違っているかという次元の話ではなく、書写指導においてどちらがより適切なのか、ということです。なぜ適切であるかというと、それは「書きやすさ」という点から説明できるということだけ先にお話ししておきます。
 まず最初に、この問題をご存じない人のために、どう違うのかという点からお話を始めましょう。右の図で、赤丸と青丸で、閉じ方、すなわち最後の接し方が異なっています。さてどれが適切な書き方といえるでしょうか?
 

 まず、いわゆる活字を見てみましょう。右の図のようになります。明朝体では、どちらも赤丸型で変わりませんが、教科書体では「口」は青丸、「日」は赤丸となっていますし、手書きの場合はこれが適切だと考えられます。


 さて、この理由が「書きやすさ」にあるということは、最初にお話ししました。なぜ、書きやすいのでしょう?
 この二種類の閉じ方のうち、どちらを基本として考えたらよいのでしょう? その問いかけの答えは、「どちらが閉じやすいでしょうか?」という問いに置き換えると簡単です。


 右の図を見て下さい。線分から線分を結ぶのと、点から点を結ぶのとではどちらが楽でしょうか? 当然ですね。線分から線分を結ぶ方が楽です。厳密な点と点を結ぶことなどできないでしょう。 

 とすれば、当然「日」に使われている赤丸型が書きやすいわけですし、それが基本になると考えて良いと思います。ですから、どちらかわからないときには、「日」のパターン、赤丸型で書くとよいと思います。

 では、なぜ「口」は、青丸形で書くのでしょうか?


 楷書を速く書いても自然に連続してしまうこともあるでしょう。また、行書を知っていれば、行書で書くこともあると思います。行書では、一般的に右の図のように書きます。その際、「日」の場合はそのまま赤丸型を維持できます。ところが、「口」を赤丸型で書くことが出来なくなってしまうことがわかるでしょう! 速く書いた際の連続、すなわち実用的な行書で書いたときのことまで考えて、「口」を青丸型にし、一般的には赤丸型にしているということが言えるのです。別項で書いていますが、行書は書きやすい書体といえるでしょう。

 よく、「口」は扁平で「日」「目」などは縦長であることから、扁平な字種を青丸型縦長の字種を赤丸型で書いている人が見受けられます。しかし、これ区別してしまっては、書きやすさと無関係となってしまいますね。右図の場合は、どちらが適切でしょうか? その通りで、扁平な「西」も基本形である赤丸型が正解です。正しい筆順で書いていれば、自然にそうなるのではないでしょうか。

 一方、青丸型で書くのは「口」だけなのでしょうか? いえ、字種としては少ないものの、部分形としてこのような書き方をするものは、かなりあります。たとえば、右図の「沢」などもその例です。

 「口」を赤丸型で書く人でも、「沢」だと青丸型で書くという人が少なくありません。おそらくこれは、単独の字種「口」は明朝体をよく見て書いているのに対し、「尺」の部分などは自然と書きやすい書き方で書いているからではないかと考えられます。



 さらにこの問題は、右図のようにみることもできます。そう、連続している部分をみると、Z型をしていますね。別項で述べているZ型運動をどの部分で用いるかということでとらえることもできるのです。

 以上、読む上ではまったく問題ないことであっても、書きやすさという点から見ると意味を持っているということがわかってもらえたら幸いです。
 なお、この閉じ方の問題について、特にその実体については、論文「手書き漢字字形の多様性に関する研究−印刷用字形の影響および書字しやすい方向性を中心に−」をご参照下さい。




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