漢字「己」の筆順における書きやすさについて Date: 2022-02-21 (Mon) 
 小西さんという本学学生の方から、筆順について質問をいただきました。おもしろい、わかりやすい例なので、紹介させていただきます。小西さんの質問をそのまま使わせていただこうと思いますが、一般の皆様にもわかりやすいよう改変させてもらっていることを、お断りしておきます。> の部分が質問で、地の文が押木の回答です。

 
> 漢字の書き順のことで質問したく、お願いいたします。
>
> 「己」という書き順ですが、なぜ二画目を、左から右に書くのでしょうか。
>
> 先生の授業で、筆順は字源や古い書体の特徴などで説明されることも多かった
> が、書きやすさ・読みやすさ・覚えやすさといったバランスで成立していると
> 考えるべきだということを聞きました。特に書きやすさについての説明を覚え
> ています。
>
> 三画目のことを考えると、二画目を左から右に行ってしまうと、筆の運びを
> いったん途切れさせてしまうのと、同じところを3回通ることになってしま
> います。

 たいへん良い質問だと思います。授業では、書きやすさの説明として具体的に、何をお話ししたでしょうか。
 一つには、「距離」の問題があります。距離からすると、おっしゃるとおり「二画目を右から左に書いた方が」短くてすみますね。同じところを3回通らなくても良いですからね。確かに、草書などでは、そのような書き方が見られます。(図の下段・左)でも、楷書(上段・左)や行書(下段・右)では違いますよね。
 もう一つ、私は何を説明したでしょうか? そのことを当てはめるとどうなるでしょうか?

> 点画の組み合わせのパターンでしょうか。
> 組合せの上位4位の中に、「┐一」というパターンが入っていました。そこか
> ら考えると、このパターンで書くために、2画目は左から右に書くということ
> でしょうか。

 正解です。(と考えています。)

 書きやすさは、
  ・距離
  ・動作のパターン
から、かなりが説明できます。そのうち、かなりの部分で距離が優先されているように見えます。しかし、なぜ? と思われる箇所には、動作のパターンの優先が見られるように思います。

 特に、 二 十 口 人 は優先されることが多いようです。「┐一」は、動作としては「一一」と同様に、Z型のパターンになることが多いはずです。このZ型はかなり優先されているのではないでしょうか。根拠は、以下の論文になります。p.37あたりが該当すると思います。

・菅野・吉池・押木,空筆部の距離を中心とした筆順の機能性に関する研究ー『筆順指導の手びき』の分析からー,書写書道教育研究,第34号,pp.31-40, 2020.03

 筆順の全体像の把握には、松本仁志先生の『筆順のはなし』(中公新書)がおすすめです。書きやすさの要素の分析については、上記の論文が新しいものとなるはずです。

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