漢字の深み-学問とロマンと- Date: 2004-10-13 (Wed) 
 ペンネーム志多伯明子さんとおっしゃる方から、e-mailでご質問をいただきました。「魂」という字の字源・意味についての話です。漢字研究とロマンとは、はっきり区別して認識することが、双方にとってしあわせなことだと思いますし、それだけの深みを持った漢字について再認識したので、ここに掲載してみます。
 なお、私自身は漢字の研究者ではないことはお断りしておきます。

> じつは、「魂(たましい)」と言う文字について、お伺いしたいのです。

漢字は、とてもおもしろくまた複雑なものだと思います。

そのため、いろいろな面から考える必要がでてくることもあります。
今回のご質問については、文字の成り立ちという客観的な面と、
文字への思いという主観的な面とに分けて考えると良いと思います。

> その昔、「魂」という文字の中に、何故「鬼」という字が入っているのかと、
> 疑問を口にした僧侶がいたと、聞いたことがあります。

まず、文字の成り立ちについては、学問の分野として、かなり客観的な
研究成果があります。普通の図書館に必ず置いてある本(字書)として、
・白川静『字統』
・藤堂明保編『漢字源』
などがあり、これらを参照されるとおもしろいと思います。上記を参照し、
簡単な説明を書きます。簡略化した説明ですので、正確には上記を読んで
下さい。

「魂」は、形声兼会意というでき方をしていると一般的に考えられています。

「云」:読み方-「ウン」(コン) 
意味-もやもやしたもの(雲のもとの字)
「鬼」:意味-死者のたましいのようなもののあらわれ

「魂」:人の命のものであり、もやもやとして形がなく、死にあたって
  体から離れ天に昇っていくと考えられた。

が、文字の成り立ちとして述べられていることです。鬼が、私たちがイメージ
するような悪役としての「おに」の意味を持つのは、漢字ができてからかなり
の後、仏教の考え方が入ってきてからだと推測します。そのため、中国古典に
おける鬼は、必ずしも悪い意味ではないようです。

> 私も常々、不思議だなぁと思っておりました。

上記のように考えると、まったく不思議な点はないのです。しかし、

> 「云」という字を書き、次に「うかんむり」を書き、その下に「志」と書くのではな
> いだろうか? という閃きでした。

> 「鬼が云う」、、ということよりも、「宿る志がいう」の方が、より本質に合ってい
> るような気がするのです。

非常におもしろいと思います。

こちらは、客観的な学問としての文字の見方ではなく、その人その人の人生や
広い意味での学びの成果として、漢字から見えてくるもの、解釈されてくるも
のだと思います。

決して学問的なものだけが、偉くて正しいのではないと思います。
(それを客観的なものとして主張するのでなければ)大いにこのような
「私の漢字解釈」があって良いのではないかと思います。

それが、漢字の奥深さであり、重みなのではないかと思うのです。
大切にしたい東アジアの文化だと思います。

> 「魂」という字が記されている最古の
> 書物は何なのか、、

少なくとも、その意味をもつ「鬼」という字は、今からおよそ3000年前の
甲骨文に使われていることが明らかです。文字の成立や、いつ頃からなのか
ということについては、阿辻哲次先生の本などをお薦めしておきます。

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