手で書くことと、脳への影響 Date: 2004-9-21 (Thu) 
> 手で書くことと、タイピングすることとで、脳への影響や記憶への問題が
> が発生することはないのですか? また、そのようなことを研究している
> 機関はあるのでしょうか?

という質問をいただきました。

 この問題について、直接的に取り扱った科学的な論文や、この問題を専門に扱っている研究グループを、私は知りません。現時点においては、他の目的のためにおこなわれた研究結果から類推するしかないのではないかと思っています。

 上記の問題は、おそらく、かなを対象としたtypingとhandwritingの間の問題というよりも、漢字を対象としたtypingとhandwritingの間の問題として考えることが多いのではないかと思います。
 その意味では、1980年代の佐々木正人氏の空書行動に関する研究から、現代では、脳の機能障害の問題をfMRIで扱った、たとえば、
Kimihiro Nakamura1, Manabu Honda1,3, Tomohisa Okada2,3,
Takashi Hanakawa1, Keiichiro Toma1, Hidenao Fukuyama1,
Junji Konishi2 and Hiroshi Shibasaki1,Participation of
the left posterior inferior temporal cortex in writing
and mental recall of kanji orthography ,Brain, Vol. 123,
No. 5, 954-967, May 2000
などが気になるところです。(この京大高次脳機能総合研究センターのグループの論文、しっかり読みたいと思っているのですが、英語が苦手なので、まだまともに読んでいません。Brain誌に載っている論文は、いくつか読みたいと思っているのですが、、)

 たとえば、佐々木の実験では、空書行動が基本的に漢字文化圏の被験者にしかみられません。たしかに、私たちは「書いて憶える」ということをしますが、タイプライターが早くから普及していた欧米において、「打って憶える」という話を聞きません。アルファベット文化圏において、この問題が(少なくとも私の知る限り)、大きな問題として研究対象にならないのは、phonogramのみの使用においては、さほど大きな問題ではないからなのかも知れません。とすれば、やはり、syllabogramかなの問題というより、ideogram漢字の問題といえるかも知れません。もし、そのために日本でも研究対象になりにくいとすれば、日本は率先してその研究をしておく必要があるかも知れないですね。

 漢字使用のために、漢字を書いて憶えるということが必要なのか不要なのか、これは(日本語を非母国語とする)日本語教育などでも、問題になっているところです。そして、漢字使用の問題と別に、文字以外の事項を書いて憶えるという点にも興味がありますが、私の対象外です。

 さて、世間で気にする脳の発育や記憶力という問題から、少し現実的な部分でのことを書かせていただきました。焦点がずれているかも知れませんが、とりあえず、思いつくところを書いておきます。

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