書写とその目標について

〜どんな力を育てるか?〜

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 国語の学習には、「聞くこと・話すこと」「読むこと」「書くこと」があります。いずれも重要なことですが、その中の「書くこと」も大切な学習内容です。この「書くこと」を支える学習があります。学習指導要領では、以下のような構造を見ることができます。


  • 書くこと
       ↑
  • 文字を書くこと
     ↑     ↑
    手で書くこと キーボードなどで書くこと 
    ^^^^^^^^^^^^

 「書くこと」を支える学習として、「文字を書くこと」の学習が必要です。「文字を書くこと」の学習では、字体・読み方・意味・用法などを学習します。そして、学習した字体を、実際に書きあわらして字形にしていくのが、「手で書くこと」の学習です。この「手で書くこと」の学習が「書写」なのです

 学習指導要領を参照すると、書写指導のねらいはおおよそ、以下のように説明できると考えられます。

書写指導のねらい
  • (正しい文字を整えて書くことで)読みやすい字を、
  • 目的や必要に応じて(効果的に)、
  • 適切な速さで(速く)       書く能力の育成 + 文字文化の理解 

 学校の教育活動全体を見たとき、ノート・ワークシートに書き込む・観察記録等を付ける、また総合的な学習等でのメモ・話し合いの記録・結果の掲示、といった多くの場面において、文字を書くことが必要となります。書写は、これらの目的に対応するための学習である必要があります。


 このようなねらいを実現するために、硬筆と(小学校3年生以上で)毛筆による学習がおこなわれます。ただし、上記の目標からすれば、最終的には硬筆による文字を向上させることがねらいとなるはずです。現在、毛筆による学習は、硬筆による書字の基礎として学習することになっています。毛筆で書かれてきた文字だから、毛筆で大きく書くことで、細かな点まで理解しようという意味です。もちろん、それ以外の理由もあるわけですが。


 さて、書写ではどんな授業をすればよいでしょうか。もちろん、決まった授業というのはありません。本当なら、ねらいに従って子どもたちに付けてあげたい力を、目の前の子どもたちにピッタリあう形で授業することが理想的です。一つの型だけで、いつも授業しているわけにはいきません。ただ、基礎となる考え方はあって良いはずです。

 皆さん自身、様々な書写の授業を受けてきたはずです。楽しかった人も、あんまり楽しくなかった人も、得意だった人も苦手だった人もいるでしょう。おそらく、それは先生になっても、同じことで、得意な人も苦手な人もいると思います。このブリッジIの授業では、ごくごく一般的な子どもたちに対し、ごくごく一般的な先生が、どのように教えるかという点を集中してお話しさせてもらいます。これだけが書写の授業の考え方でないことを、先にお断りしておきます。得意な子をどうやって伸ばすかということも大事だと思いますよ。

 なお、書写の授業もかなり地域差があるようです。これからお話しするような授業を受けてきたという人と、そうでなかったという人といると思います。前者の人は、思い出しながら、また自分が授業をするイメージをもって、聞いて下さい。後者の人は、全国的な書写の授業の流れとして、自分が授業をするイメージをもって、聞いて下さい。
 余談ですが、私は子供のころ字を書くのが苦手でした。いわゆるお習字が得意な先生は、たいがい字が上手な先生といって良いのではないでしょうか。それに対し、私は今でこそ大学で書を教えていますが、どちらかといえば字を書くのに苦労した方だといって良いと思います。そんな私だからこそできる書写指導の研究があるのではないかと思っています。

 情報機器が普及してくると、字を書くことも減るかも知れませんが、字を整えて書きたいという希望を持つ子がいる限り、書写指導をもっとしっかりさせなければいけないと思います。では、少しずつ内容に入っていきましょう。