手で書くことの機能として、記録・伝達の他に、認証・装飾・芸術や、学習という場面をあげています。(一般に手に入りやすいものとしては、『改訂書写指導』/萱原書房、2003.3、pp.79-88)
キーボードの普及によって、手で書くことが減少した場合の問題として、この「学習」ということが気になりますし、気にされる方も少なくないようです。
この点は、「漢字の学習」という文字の習得を示す場合と、それ以外の内容たとえば歴史上の出来事と年代を書いて覚える、といった場合とがあり得ます。
前者については、『世論調査報告書 平成14年度 国語に関する世論調査 日本人の国語力』(文化庁文化部国語課)においても、興味深い点が見られます。「10.漢字を習得する上で役立ったこと」の問8「あなたの経験から漢字を習得する上で、どのようなことが役立ちましたか。(略)」という問いに対し、第1位は「何度も手で書くこと」の74.3%でした。年齢層で見ると、30-40歳代においてこの回答が多いようです。
この結果は、文字は手で書くものと思って育った世代だからでしょうか、それとも、キーボードを使う時代になっても、漢字は手で書いて覚えた方が良いという意味なのでしょうか?
また、たまたま先日、日本語教育で著名なH先生(米国の某大学)とお話ししていて、日本語教育における書くことについて、お話しさせていただく機会を得ました。まだ日本人は、漢字を書いて覚えていますが、日本語教育においてはキーボードで入力できれば済むということも現実に起こり得ます。
後者については、果たしてどうなのでしょうか?
私は、書く行為(とその生成物)自体を専門としていますので、こういった問題については、認知科学などで研究が進んでいることを期待しています。しかし、「手で書くこと」と「学習」について、総括的に述べた論文や本は見つかりません。
この文章を書く趣旨の第一は、そういった文献があったらぜひとも教えていただきたいということです。第二として、現在考えられる事柄について、私なりにまとめておきたいということです。
これらのうち、4番目については、正直に申しまして思いつきませんでした。実は、先に述べたH先生の発想であることを明らかにしておきます。
これらはいずれも経験から類推されることであり、実験的データを持っていません。もしかしたら、私らの分野でも取り組むべき問題なのかも知れないと思っています。
ただし、1と2については、ある程度言いうるかも知れないと思う成果が示されています。
一般的に手に入りやすい書籍として、
今後、私のわかる他の文献を紹介するとともに、関連する文献を探していきたいと思いますが、もしご存じでいらしたらお知らせいただけますと幸いです。