以下は、『石川県書写書道教育』第19号(石川県書写書道教育連盟発行)に載せられた原稿をお願いして転載させてもらったものです。


全国大学書道学会 1998年度 姫路大会 報告 

     金沢大学教育学部附属中学校講師 礒野美佳


 大会は平成十年十一月二十七日、姫路にて開催された。中国書道史に関するものが四件、日本書道史に関するもの四件合わせて八件の発表と記念講演が行われた。

 小黒哲也氏は「西周後期金文における諸相について」と題し、西周期の金文が篆書に移行していく字形・書風の変遷を追うことで、その書美の分析を行った。小川貴史氏は「簡牘、帛書類にみる古隷の発生」と題し、漢初の馬王堆帛書から後記の敦煌漢簡までの書風について考察を行った。小木良一氏は「参宝子碑再考」と題し、隷書から楷書への過渡期のものととらえられている「参宝子碑」には、当時劣勢にあった参氏が漢末から流生してきた技による型に反抗しようとする強い意志があるのではないかと述べた。刑部卓也氏は「芸術作品としての九成宮醴泉銘」と題し、「楷書の極則」の定義を確認するとともに、起筆の角度を分析・考察した結果を述べた。野中浩俊氏は、「富岡鉄斎の自刻印について」と題し、自刻印とされるものを篆刻家が作ったもの、印稿を鉄斎が作り篆刻家が刻したもの、全て鉄斎の手によるものに分類し、鉄斎芸術の特質について述べた。南香織氏は「中林梧竹−その人生と芸術」と題し、徳島県所蔵の作品を中心にその書風を五つに分類し、梧竹の芸術観について述べた。渡邊和恵氏は「高野切第一種筆者の研究『行経』書状をめぐって」と題し、字形・書風と「夜鶴庭訓抄」などの文献から見る歴史背景から分析・考察をした。大野久美氏は「大字仮名書論考-近衛信尹の大字仮名屏風を中心に」と題し、昭和三十年代の関西における大字仮名運動の先駆的なものが近衛信尹であると述べた。

 今大会開催地姫路のある兵庫県は、上田桑鳩ゆかりの地である。これにちなみ、記念講演は菅野清峯氏による「上田桑鳩の善業と地域社会」と題するものであった。方廣寺、別名桑鳩寺所蔵のものを中心に多くの作品をご紹介・解説をいただいた。菅野氏は、桑鳩、宇野雪村の弟子として、桑鳩の書に取り組む姿勢を講話された。以上簡単ながらご報告させていただいた。

<=========================
選択のページに戻る ========================>

<========================= 押木研究室に戻る ========================>