平成17年度全国大学書道学会・千葉大会に参加して

報告者:上越教育大学大学院  渡邉 明
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※本文章は、実践場面分析演習の課題の一環として提出されたものを、掲載させていただいています。

 平成17年度の全国大学書道学会千葉大会は9月21日(水)に、緑豊かで落ち着いた雰囲気の千葉大学西千葉キャンパスの教育学部校舎にて開催された。午前中の総会に続いて、午前の研究発表は3会場に分散し、記念講演のあと午後の研究発表は1会場で実施された。
 研究発表の題目と発表者については以下の通りである。  

 印象に残っている点は、肉筆資料としての簡牘が秦代・漢代と時代の隔たりを埋めてくれる存在であるという内容の発表である。それは次の2発表である。(以下、敬称略)
 堀川千夏子(新潟大学院生)による「法律文書にみる秦・前漢時代の書美・書風に関する一考察」は記載内容に共通性の見い出せる秦代の雲夢睡虎地秦簡と前漢時代の張家山漢墓竹簡は書写年代が異なるものの湖北省からの出土であることや法的類似性から、書美・書風において相関性が認められるとしている。

 一方、岡本直人(帝京大)は「開通褒斜道刻石の考察‐簡牘との比較を通して」で後漢に書かれた開通褒斜道刻石が「長短広狭、参差として斉しからず」とされる要因について、前漢から後漢にかけての刻石で罫線が引かれているものに着目し、「行」の意識で書かれていることを指摘している。さらに開通褒斜道刻石の文字と居延漢簡等との比較分析の上で、先行した肉筆簡牘の書の系譜に開通褒斜道刻石が連なっているとまとめている。

 また午後の記念講演「出土文字を観る」で、国立歴史民族博物館の平川南先生は「六世紀の朝鮮半島からの出土木簡 には漢字の発音による文字伝達(口頭伝達)がみられる。日本国内でも、近年の広汎な出土資料により、大宝律令の施行により、中央政府からまた逆に地方から中央への文書行政システムが確立していたことがわかった。また古代日本では紙と木(木簡)の併用も行われ、削って何回も使った木と大事な文書の記載に使用された紙との使い分けもみられる。一定幅の簡を連ねたとされる幅広の木簡は紙の文書との関連を想定したものである。」と話される。

 上記の2発表と考え合わせると、出土した簡牘(木簡)が時代・地域を超えて日中両国の書美におおきな影響があったことを感じさせる。

〔文責 渡邉 明〕