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第十六回<書論研究会>大会報告

 杉村邦彦氏の主宰する書論研究会の第十六回大会が、東京都・千代田区の国立教育会館を会場に、八月七日開催された。例年京都を会場として開催されている同大会の、はじめての東京大会となった。筆者も傍聴の機会を得たので報告したい。なお、筆者にとって苦手とする分野だけに遺漏があれば、なにとぞお許しいただきたい。
 大会は杉村会長の挨拶から始まり四件の研究発表がおこなわれた。宮崎洋一氏は「主要石刻関係著録の整理について−顔真卿東方朔畫賛碑の場合−」という題で、題跋類の編年的整理の方法について触れた後、東方朔畫賛碑に関する題跋内容の変化を明らかにした。同じ碑に対し、宋の蘇東坡は「清雄」「清遠」と評し、明の安世鳳は「豊偉」としているが、これを拓の変化によるものではないかとしている点が興味深い。
 続く喜多上氏は「八一と良寛−『良寛詩集』への書き入れ−」の題で、會津八一が『良寛詩集』へ書き入れした部分を考察した。もともと良寛の寒山詩への傾倒は知られたところではあるが、従来の研究者は寒山・良寛の類似点を挙げているのに対し、八一は寒山の孤高、良寛のさびしがりという相違点を捉えているという点を中心とした発表であった。
 三番目の祁小春氏は中国人民大学研究所からの留学生で、「版刻序跋書法試探−中国書法史新資料の発掘−」を発表した。版刻の諸本には序跋がついているが、これが手書きの刻である場合も多く、新しい書法資料になるとして、内容・相互の関連性・書風について考察した。初印本と後印本の問題、法書ほど精密に刻されていないことなどの意見が出されたが、新しい研究の芽生えといえよう。最後の研究発表は、五島美術館学芸課長の名児耶明氏の「定家の若書き書風について」であった。いかにも定家らしい書きぶりは、おもに定家五十才以降に見られるもので、それ以前の若書きは冷泉家の私家集収集のためのコピースタッフ共通の書風であるとし、伝西行の書風がそれに近いことをスライドを用いて説明した。
 研究発表の後は、『古筆学大成』の完成で一層の注目を集めている小松茂美氏の講演となった。国鉄職員であったころの原爆体験と運命的な平家納経との出会い、二荒山本後撰集への興味、字母や顕微鏡写真による研究方法のことなどに触れつつ、古筆学を作り上げていく過程が語られた。以上、盛りだくさんで、内容の濃い大会であった。
 なお、同大会は会員以外の参加も可能であることを申し添えておきたい。

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