全国大学書写書道教育学会 岡山大会 報告 

 

 金沢大学大学院 内藤仁之

 平成8年10月10日、岡山大学にて開催された学会も11回を数え、これからの発展期を支えるべく充実した研究発表がプログラムに並んだ。

 午前は、第一分科会では理論研究が四件、第二分科会で比較・歴史・教育理論等の研究が4件発表された。第一分科会の一件目は堀らの「手書き漢字字形の多様性に関する基礎研究」である。字形習得における印刷用文字の影響について、手書き漢字の調査を行い、書きやすさや識別のしやすさなどからその問題点について考察した。二件目の染谷は、行書の創作に用いるひな型を、主に古典の作品から集字したデータベースを基に、生徒一人一人がコンピュータで作成するという研究をおこなった。三件目の押木は、手書き文字を扱う研究の視点について提案すると共に、筆順研究の場合を例に研究の構造を考察している。四件目の小竹は、漢字仮名の基本点画・運動に着目し、コンピュータによって文字を書くときの手指の握圧のグラフ化を試みている。

 第二分科会における発表の一件目は高濱「非漢字文化圏における「書」の教育目的」で、米国の高等教育における「書」の教育事例を分析した。二件目の新井は、日中の結構指導の比較から日本の書写教育に有効と考えられる課題について論じている。三件目は松本「書写の学習指導法と認識能力との関係」。書写の学習指導方法において「比較」という認識活動を重視し、この認識活動が書写の学習指導とどのような関わり合いを持つのかを論じた。新しい教育理論に向けて期待できるものであった。四件目の鈴木は、芸能科習字期の授業過程を考察し、書写書道の授業に基礎学力・自ら学ぶ能力の開発の追求という立場から今後の展望を見据えている。

 午後の部では、教員養成問題と、課題研究「ティーム・ティーチングの考え方とその実践」の発表・討論が行われた。前者は大房・宮澤らの「大学における「国語科書写」関係授業の充実を目指すための一試案」である。現行学習指導要領における書写・書道の強化を推進する行政の動向に対し、大学での授業が学生にとって実際の教育現場に即するものかどうか、教育実習後にアンケートをとり、その結果を大学での授業にフィードバックするという研究である。

 後者は、T・Tをテーマとしている。推進的立場から都教委の釼持氏が、実践的立場から千葉県・香川県の現職教師らが発表した。釼持氏は、T・Tの問題点に触れて、受け持つ教師の配当の問題、長期或いは中期的展望の下での導入が望ましいことなどをあげ、教師の指導観・児童観の共通理解の徹底を呼び掛けた。実践的立場からは、江藤・今関氏が小学校第五学年と第六学年の学習を中心に報告し、T・Tの課題として、次をあげた。

 次に町川氏は現場へのT・Tの導入の過程を辿り、実践報告(複数校)をまとめた。中でも次のような、T・Tの長所を活かした興味深いものをあげている。

 これら二つの発表は、教室内でのT・Tの現状と現場の声が非常にリアルに伝わってきた。更なる実践報告に期待がかかる。

 今回の学会は、コンピュータの活用による発表が多かったことと、現職の教師の活躍が際立っていた。学会の機能を十分に活かすには、書写教育に携わる様々な立場の人間が、積極的に情報・意見交換をしていくことが大切になってくる。

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