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全国大学書写書道教育学会(滋賀大会) 報告

 本年度の同学会大会は、十月二十九日、滋賀大学を当番校として琵琶湖畔の大津プリンスホテルを会場に開催された。

 総会では、久米理事長から「書字学(仮称)」に関する説明、同学会編のテキスト『書写指導』の状況、国語審議会中間答申に「書写指導強化」と読める記述が盛り込まれたこと、文部省が打ち出した教員の加配に関してなどの、興味深い内容を含む挨拶があった。このうち、『書写指導』(小学校編・中学校編 萱原書房)は全国的に好評であり、改訂増刷が予定されている。教員養成用テキストであるが、現職教員の皆様にも校内研修等でご利用いただけたらと思う。また教員定数の加配に関して、書写指導は実技を含むことからも、ティームティーチングの可能性なども含めて考えて行きたい。

 研究発表では、十件の口頭発表がなされた。ここ数年の傾向として研究発表のテーマは、教育史研究・教育の基礎理論に関する研究・実践と直結する研究・教員養成に関する研究・現代の(子供達の)文字の実態に関する研究などに分類できる。本年度も、教育史研究としては、広瀬裕之(帝京大)「華族子女における書写教育」他の発表があった。また、歴史研究と基礎理論に関する研究の中間に位置する研究として、松本仁志(広島大附属)「筆順・筆順指導史に関する一考察」があった。『筆順指導の手引き』(昭和三十三年文部省)以前、特に明治期筆順書群に関して考察を加えており、筆順の根拠を説明する際の資料として大変興味深いものである。

 実践と直結する研究としては、外田久美(千葉大附属)他「中学校国語科書写における行書の学習指導法の研究」があげられる。中学校新指導要領の来年度完全実施を目前にし、また中高生の速書時の文字の乱れが指摘されている時期において、理論を踏まえた上で効果的な実践に即結びつく研究といえよう。同大会前日におこなわれた日本教育大学協会全国書道教育部門会において、附属学校との連携による研究の必要性が述べられたが、この研究発表は複数の附属学校の共同研究によるものであり、附属学校の特質を生かした理論と実践をむすぶ研究として参考になるものである。石川県内では金沢大学としても今後検討して行くべき点と言えよう。

 さらに教員養成に関する研究として、菊池利昭(岩手大)「小学校教員養成課程学生の硬筆書写力養成のための一試行」が、また現代の文字の実態に関する研究として、森下弘(島根大)「小・中・高・大学の学生生徒の文字書写傾向の分析研究」があげられる。森下は、松江市内の児童生徒学生を対象にKJ法を用いて調査した結果、高校入学時点において文字の乱れが進んでいることを指摘した。

 さて、今回の大会の一つの目玉として、「書字学(仮称)」構築の提言があげられる。同学会岩手大会における「手書き文字学の確立」提言を受け、有志による研究会を重ねてきたもの(『書写書道教育研究』第六号一一六ページ参照)で、理事長挨拶の中で今後この動きを学会としてサポートしていくという報告があった。以前より、国語学等によって裏打ちされた国語教育の中にあって、書写は芸術としての「書道」があるというものの、背景となる学問が明確でないという声があったわけだが、その答えになるものを探ろうとする動きといえよう。久米公(千葉大)の提言「書字学(仮称)構築の必要性と可能性」のあと、その理念を鈴木慶子(都留文大)「書写書道教育学の深化をめざす立場から」、具体的な展開について押木秀樹(金沢大)「手書き文字研究の基礎に関する諸考察」の各提案がなされた。まだ、<文字を書くこと>に関する研究の領域設定や研究方法の模索、課題の整理など<入れ物>を論じている段階であるが、今後が期待される。


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