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 以下は、『石川県書写書道教育』第19号(石川県書写書道教育連盟発行)に載せられた原稿をお願いして転載させてもらったものです。

全国大学書写書道教育学会

小・中・高・大・生涯教育合同による研究フォーラム

「書写書道教育の未来を開く」に参加して

                金沢市立浅野川中学校教諭 八田和幸

 時代や教育が大きく変化し、大学の改革や学習指導要領の改訂も行われる今、書写書道教育をめぐる諸課題を把握し、二十一世紀の書写書道教育を考えようという趣旨で各校種合同のフォーラムが行われました。

 (第一部)では「まず、お互いの実情を理解し合おう」ということで、各校種の立場から現状の報告がなされました。
 小学校からは千葉県佐原小学校の椎名典子先生から「私たちの実践のこれまで、いま、そしてこれから」と題して千葉県香取市書写部会の活動が紹介されました。近年に実践された小学校一年生から六年生までの指導案を添付し、十九年に渡る研究の積み重ねの中から指導者の意識が変革されて、お習字教育からの脱皮がはかられると同時に、書写としての指導法が広がってきたという成果が報告されました。目を惹いた活動としては、人須賀小の週一団朝の時間に「書写タイム」を設けて、書写の時間で学習したことを定着させる時間を持っていることでした。
 中学校からは東京学芸大附属竹早中学校の青山浩之先生から「新しい世紀に向けて、本来的な国語科書写の意欲的な実践へ」と題して発表がありました。全書研における中学校部会の研究が、何を目指してきたのか、何に重点を買いてきたのか、などを豊富な資料をもとに、分析されています。これからの方向は、「生きる力」の育成をめぎし、作文指導との関連や、総合的な学習との絡み、主体的な学習の構築をめざし、計画的、継続的な研究が必要なことが確認されました。
 高校からは全日本高等学校書道教育研究会研究部から「高校書道の明日を拓く−自己実現をめざす授業創りへ−と題して発表がありました。漢字仮名交じりの書の指導法等の研究を深め、小・中学校との連携を考えた研究がこれからの課題であろうとのこと。また、平成十年度全高書研岩手大会において発表された高校における書道教育の実態調査についても触れ、書道を選択する生徒が減り、開講される講座も減りつつあること、専任教諭の減少など書道教育の維持に危機感を募らせていることが報告されました。
 大学からは山梨大学の宮津正明先年から「大学書写書道教育の歩み……前進そして新出発へ」と題して発表がありました。大学改組によって学生が減り、免許法の改正にともなって必修単位の減少が考えられる現状の報告と、少ない時間でどのように、学生に書写書道教育の必要性や魅力を伝えるか、改めて授業内容の充実が肝要であることが強調されました。また、書写書道教育学会の設立からのあゆみが述べられ、久米公先生はじめさまざまな先生方の努力が合わさって初めて大きな力となり、生み出された学会であったことを感じました。また、教員養成に果たしてきた大学側の役割の大きさを確認できるものでもありました。


 (第二部)では「視野を広げて、.緒に、考え合おう」ということで、逆に書写書道教育を専門に取り組んでいらっしゃらない方々からの提言をいただきました。
 国語教育の立場として、愛媛大学教授の三浦和尚先生からは、従来の書写本。辻教育の研究には児童・生徒の立場からの視点が足りないのでは、とのご指摘でした。例えば、体育なら逆上がりを学習する際、出来た出来ないを問題にするのではなく、チャレンジする中で生徒が何を学んだのか、を研究している。あるいは四十人という集団で学んでいることを活用しているのか、子どもたちのうまく書けたという喜びと鑑賞指導が結びついているのか等々鋭い指摘がいただけました。
 教育行政・社会教育の立場から、奈良県教育委員会生涯学習課課長補佐の十家利之先生からは、研修会の充実や高校入試への出題、教員採用試験(国語科)への出題、初任者研修での板書指導、書写書道担当指導有事の設置などで充実に取り組んでいることが報告されました。本県でも学ぶべき点が多々あるように感じました。
 生涯学習の立場から、全日本書教育書道文化振興連盟理事長の管原音先牛からは、学校教育の前段の研究の急務が訴えられました。実態として、幼児進学塾で文字を教え込まれた子どもたちが、書けるけれども書きたがらず、逆に文字を教えられていない保育園の子どもたちの方が、自分の描いた絵に自分で名前を書きたがる状況があること。あるいは書塾における少子化、書道離れの実態(十年前、五百万人→現在、百五十万人)や学校書写との関係で、教科書の違いによる書きぶりの違いによっておこる混乱→標準字体の作成の必要性、また、台湾や韓国が書写書道を学校教育の中で必修化しようとして、日本の今回の指導要領に注目していること。書道人口全般の減少や、ある全国書道展の年齢状況の変化(若年層の減少)男女比の変化(男性の減少)などのデータもあげられ、興味は尽きない握言でありました。


 〈第三部〉では「第、一・二部の提言を踏まえて、みんなで、語し合おう」ということで、午前中に行われた第一・二部についての質問・意見川紙が配布・回収され、その主なものが披露され話し合われました.そして、井上輝夫先生−全日本書写書道教育研究会理事長)、深井一憲先生(全日本高等学校書道教育研究会理事長)、久米公先生(全国人学書写書道教育学会理事長)の、三氏が、それぞれの立場を生かしてコメントを述べられました。最後に久米先牛からおっしゃられた言葉が心に残りました。「自己保身のためではなく、『時代や社会の問いかけ』に応えていくため、授業の充実に励まなければならない。それは学習者と共に創出し、常に両者で充実・改善を[指していくものである。その中にこそ、書写書道教育の未来がある、」とのご指摘。
 人が人を育てる、という原点に立ち変えり、書写または書道を通して、子どもたちに何を学ばせるのか等を考えるよい機会となりました。













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