教課審中間まとめと書写指導に関する私見

 
 
Back
 今回の中間まとめにおいて、筆者が書写指導に関連して重要だと思える点は次のようになる。

1.「いかに社会が変化しようと…問題を解決する資質や能力」
 「学ぶことの動機付けや学び方の育成を重視」
2.「日常生活に必要な基礎・基本に厳選し、…繰り返し学習させ習熟させる。」
 「時代を越えて変わらない価値あるものを身につけること」
3.「個性を伸長させる」「感動する心」
4.「総合的な学習の時間」(仮称)を創設する。
5.「国際社会の中で…我が国や郷土の歴史や文化・伝統に対する理解を深め」

 国語科書写の特徴からすると、指導内容は2.「日常生活に必要な基礎・基本」である字を書くということであり、その学習の過程において3.個性を無視することなく、5.文化として理解し愛する心を育成ことができればさらに良い、ということになるであろう。もちろん、この場合の個性・文化とは、国語科書写である以上芸術的な表現とは異なり、一人一人が文字を書くという日常の活動の中に生じるものの意味としてである。これらの指導が、学び方の育成という考え方で、また総合的な学習においてもおこなわれる必要があろう。

 さて、これらの視点による授業研究がすでにおこなわれていることはご存じであろうか。書写の授業研究の流れは、手本重視から指導内容重視の方向性を持っておこなわれているわけだが、これは1.学び方の育成および3.個性の伸長という点に合致する。4.総合学習的視点という意味では、そもそも手で文字を書くこと自体、ほとんどの学習活動に関係する営みであることを忘れてはならない。さらに小学校などを中心に、文化祭・運動会のお誘いの手紙を書く実践や、理科・社会などで調べたことを掲示するといった活動と書写を結びつけている実践も見られる。大学生になっても形式的な手紙一つ書けないといった批判を考えると適切な実践といえよう。もちろん中学校においても、5.「国際社会の中で」という点と関連した実践が見られる。平成九年度の全国大学書写書道教育学会熊本大会において、短期留学生を交えた毛筆による書写の授業(中学校)が公開された。国語と英語の教員のティームティーチングにより、書写・英語の学習をおこなったのであるが、生徒たちは和気藹々として、留学生ばかりでなく日本の中学生自身が日本の文化・伝統に対する理解を深めたことが感じられた。

 このように書写の授業研究も中間まとめを先取りする形で進み実践されているとはいえ、指導方法は常に前進しなければならない。問題解決的方法、動機付け、学び方の学習というポイントを、書写指導でどのように考えたら良いだろうか。基礎基本は繰り返し学習し覚えれば良いといった消極的考え方のみではいけない。たとえば、動機付けについては、試書や日常筆記するものの問題点を自ら気付くことが必要である。そして自分自身の文字をどのようにしたらより適するものにできるかという考察も必要であろう。また、学習項目について、なぜそのように書くべきなのかという視点からの授業も考えられる。たとえば、図は「口」と「日」の閉じ方の問題である。果たして先生方が担当するクラスの生徒すべてが、この意味を理解していると言えるだろうか。学習内容の意味を考え納得した上で練習すると言うことは、「知的好奇心や探求心を持たせ…」という記述とも合致する。もちろん、学習時間内に目標とする書字技能を身につけることができない生徒であっても、自らの字を見つめその問題点を解決できる能力があれば、社会にでて必要性を感じたときに学び直せるわけである。自分の文字に必要な点を自らが考え、そして学習内容の意味を考え納得するという過程を経つつ、基礎基本としての「文字を書く力」を身につけさせたいものである。

(1998.04.01 『ニューサポート』1998.4号)
<========================= 押木研究室に戻る ========================>