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漢字とローマ字の運動性の問題(未発表・草稿)

−Z型運動とN型運動の問題−

押木秀樹   



 漢字は縦書きに適しているといわれます。これについては、さまざまな部分にその要素が見られるかと思いますが、私は扁旁構造の問題と、運動性の問題について注目しています。扁旁構造に関しては別項でお話ししていますので、そちらを参考にしていただくこととして、本稿では漢字の伝統的な運動性について、考えてみたいと思います。

 ローマ字は横書きで、漢字は縦書きで成立してきました。このうち、漢字は横書きされることも多くなってきました。右図のように、ローマ字は垂直方向の動きをともなって進行し、漢字は水平方向の動きをともなって進行すると考えて良さそうです。すなわち、筆記する進行方向と直角の運動をしているということになります。この点は、兵庫教育大学の小竹先生をはじめとする先生方が、認識(読む)の際の視線の運動と直角に線分があることが、認識のしやすさにつながるという説を出しています。ただし、これらはcursibe writingの時と、行書的な書き方をした時に顕著だと言うことも付け加えておきましょう。

 この点から縦書きは、運動の統一性から見ても、適当なものではないかと考えられます。漢字の場合、横書きするということは、この運動の統一性を崩す動きが頻繁に加わる、すなわち一行ごとに左上への動きをすれば良かったものが、一字ごともしくは扁や旁ごとに右上への動きをしなければいけなくなります。漢字の構造はその運動性から見ても、縦書きに適していると考えられるわけです。

 なお、私どもの研究室では、

と読んでいます。その意味は、右の図をごらんいただくことで理解いただけるだろうと思います。なお、漢字のZ型運動に関しての研究データは、別項もしくは論文をご参照下さい。



 さて、同じ「文字を書く」という動作をしながら、なぜローマ字と漢字とではこのような違った運動をするようになったのでしょうか? この点についてふれた研究成果は、私の知る限りありません。書字方向(縦書き・横書き)が先だったのか、それとも細かい運動性が先立ったのか、どちらでしょうか。

 この点について少し考察しておくことにいたします。まず、右の図をご覧下さい。右手で筆記具を持ったときの運動は、このようになるでしょう。この時の運動によって生じる線は、次の図のようになるはずです。
 このような円弧のうち、上の方を使えば漢字のZ型運動を生じ、下の方を使えばローマ字のN型運動を生じるということになりますね。まったく異なった感じのする二つの運動は、同じ円弧上のどの部分を用いるかということで説明可能です。


 次に、なぜこのように使われる部分が異なるのでしょうか? これも縦書き・横書きが先か、細かい運動性が先か、、、という問題になってしまいます。

 もし運動性が先だとすると、、たとえばこんなことも考えられます。このことはあくまで想像上のことに過ぎません。机が高かったときと低かったときの腕の位置を比べてみて下さい。

 机が低い場合には、上から見て肘は直線的に見えます。ところが、机の面が高い場合は、同様に見て肘がかなりの角度で曲がって見えるはずです。そうすると、筆記具の角度は右の図のようになるはずです。試しにやってみるとわかってもらえるのではないでしょうか。

 そうです、、それぞれの文字が発達した頃、西アジアからヨーロッパの机は高かった、そして東アジア(中国)の机は低かった、、なんて考えると、楽しいではありませんか! もちろん、これは推測に過ぎませんが、誰か昔の机の高さの比較をしてみるとおもしろいかも知れませんよ。何の保証もありませんけど。 また逆に、アルファベットは机が高い方が書きやすく、漢字は低い方が書きやすかったりするかも知れません。

 さて、ローマ字型と漢字型の運動のどちらがより効果的な書き方なのでしょうか? この点は、また項を改めて考えてみたいと思います。


(1997.06.02)


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