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マンガ文字は何だったか?

−文字の曲線化の持つ意味−

 大学生でもマンガ文字を書く子は少なくなってきています。指導の成果と言えるかも知れません。少し過去の事例を振り返って、マンガ文字・丸文字になぜ?と問いかけをしてみましょう。

 これらの文字を書いていた学生らにその理由を尋ねると、「かわいいから」「おしゃれだから」という返事が返ってきます。「装飾化」だということがわかります。書き分けが出来る大学生は、意識的に装飾化が可能です。しかし、本人たちが意識していることだけが理由でしょうか。

 あるシンポジウムの懇親会で、米国人の筆跡学者から、「米国ではアルファベットが曲線化している。また日本では丸文字がはやっているという。その関係をどう考えるか?」と聞かれたことがあります。確かに両者に使われている曲線は似ています。また、私はこの曲線は漢簡・晋簡に使われている曲線に似ているように思われてなりません。小林比出代氏の報告によれば、米国では1960年頃からcursive writing を1年生で教えなくなり、日本では1958年から行書を小学校で教えなくなっているという共通点があります。丁寧に書くこともっぱらとした楷書を速書きすることによる曲線化という側面が感じられるように思います。また、出雲崎氏らの研究によれば、丸文字に限らず、教科書通りの「わ」を書くのは40%いないことが報告されています。単純化という面が見えるでしょう。

 また、ひらがなには「曲がり」「結び」がありますが、「の・は・す」などのカーブはそれぞれ違います。しかし、丸文字・マンガ文字では、これらを同じカーブで書いたものが多くみられました。これは、字形構成要素(運動)の淘汰と考えられます。なぜ、これらは同じカーブで書いてはいけないのでしょう? 同じカーブにした方が、統一性が取れ、学習も簡単で合理的なはずです。一つには、伝統に根ざした「美意識」の問題と考えられます。しかし、「似たようなカーブだと似たような字になり、読みにくくなる」という機能的な問題もあるはずです。このように、なぜ?と問いかけてみると考えると、美意識のみで片付けられていたことが、読みやすさ・書きやすさという機能と関わってることがわかります。「字は読めればよい」という意見の方にも納得してもらいやすいように思うのですが、いかがなものでしょう。

(1996.07.30)

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