東京都盲ろう養護学校 第8回書作展を拝見して

書道部門講師 押木秀樹(上越教育大学助教授)
 

上記展覧会のページ(第8回展) をぜひともご覧下さい!

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 最初に、ご指導にあたられた先生・展覧会の運営にあたられた先生のご苦労に感謝いたします。本年の書道展は会場が変わり、それによる運営のご苦労もあったことと思います。また、実際の展覧会とインターネット展の両方のご準備は大変なことかと思いますが、さらにインターネット展では、前年度の作品を見ることもできるように工夫して下さいました。インターネット展によって、遠方から見ることができるメリットに加え、過去の展覧会を振り返ってみることもでき、大変ありがたいことだと思います。

 さて一昨年の講評において、何のために筆を持って書くのかということを記させていただきました。書く目的や障害の程度によって、何のために書くかということは異なり、またそれに応じた工夫が必要であると思います。講評する立場からは、出品者一人一人の制作の場面を想像しながら、コメントさせていただきました。一方で、他の芸術分野でもそうですが、作者の意図と鑑賞する人の感じることに差が生じることもあり、作者によってはそれが芸術作品のおもしろさだとも言います。今回の展覧会では、出品者の皆さんの気持ちを想像しながら鑑賞できる作品に加え、あくまで作品自体を楽しく鑑賞できる作品が多くあったように思います。

 たとえば、M養護学校のTさん「竹」・Mさん「龍」はそれぞれ、一生懸命に名前の字を練習しているのだと思います。しかし見る者からすると、竹が竹らしく書かれていることや、龍の造形感覚のおもしろさを感じます。同様に感じられる作品として、N養護学校のHさん「翔」や、Gさん「力」・Sさん「げんき」などがあげられます。さらに、F養護学校のNさんの作品は、障害のためかも知れませんが、その余白と文字との関係が何かを感じさせます。整った字を書こうという意図で練習しているのだと想像できる、I養護学校の皆さんの作品は、目的に向かった努力の跡が感じられるとともに、線の表情が作品ごとに異なって個性がでています。中で、Iさんの「すもう」に手で突き出す力強さが、Kさん「宝石の輝き」に今から2000年ほど前の漢字の表現にも似たおもしろさが、感じられます。これらの興味深い作品は、書写展ではなく書作展ならではのところであり、ぜひ一般の皆様にもご覧いただきたい部分のように思います。

 もちろん、意図どおりに感じられたであろう作品もたくさんありました。H養護学校・J養護学校の皆さんの作品からは、整った字を書こうという意図が感じられます。特に、K盲学校のNさん「光」・K養護学校のHさん「一」・K盲学校のMさん「兵」は、それぞれにしっかりした字が書けています。これらの学校の皆さんは、総じて整えようという意思が感じられます。昨年からの向上という点では、M養護学校のYさんらの名前の字がしっかりしてきました。N養護学校は、昨年の1〜2字の作品から、4〜5字の作品になりました。I養護学校の皆さんの作品も楽しみにしたいと思います。

 今年度、K養護学校のIさんはかなの長い作品を、Oろう学校のGさん・Eさんや賛助出品して下さったSさん・Kさんは、長い漢字仮名交じりの作品を出品してくれました。いずれも、見応えある作品です。Oろう学校のTさんによる流れのある表現は、今後のさらなる向上が楽しみです。さらに、賛助出品のSさんの作品は、昨年の字が書かれている感じから、本年は心が書かれている感じがして仕方ありません。これらのすばらしい作品を参考にした、さらに向上した作品を、来年度も拝見できることを楽しみにしまして、講評といたします。