東京都盲ろう養護学校 第7回書道作品展


インターネット展を拝見して

書道部門講師 押木秀樹(上越教育大学助教授)
 

上記展覧会のページをぜひともご覧下さい!

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 雪深い新潟県の上越市から、今年もインターネットによって展覧会を拝見させてもらうことになりました。今回最初に探したのは、Y養護学校のT君の作品でした。なぜT君の作品を探したかというと、昨年の「月と山」という作品が、とても気に入っていたからです。今回、T君の作品を見ることができないのは残念ですが、T君の作品を見たいと思った理由を講評の最初に書かせていただきます。

 私は障害児教育の専門家ではありませんが、たまたま、養護学校関係の保護者の方、小学校で特殊学級の教諭をされている方それぞれとお話しする機会があり、意気投合しました。保護者の方は、自分のお子さんが社会的に生きていけるようになることだけを考えていたが、学校でいろいろな体験をさせてもらってみて、健常児より能力的に優れている部分が見つかってすごくうれしかったと語ってくださいました。教える側からは、障害のある子はすべての面で健常児に劣っているという捉え方をされるのが残念だ、と話して下さいました。劣っている部分を矯正する、社会の歯車になれることだけを考えているようなネガティブな発想から、得意なものを伸ばすポジティブな発想に切り替える時期に来ているのではないか、また一般学級の子どもたちに負けない力を発揮してくれるのがうれしいという感想をうかがいました。

 私は昨年まで、障害があってもいろいろなことを体験する機会を与えることは大事だという単純な感想を持っていました。第6回展の会場で実際に作品、たとえばT君の作品に生で接してみて、これは体験する喜びを与えるのみではなく、多くの児童生徒に体験させてみて、その中の一人いるかいないかを掘り出す試みでもありうるのではと思いました。もちろん、山下清のような人が、たくさん出てくるなどとは思えません。障害がある人は、そうでない人に比べ特殊な才能を持っているという説がどの程度科学的根拠を持つのか、専門家ではない私にはわかりません。さらに、書という芸術において、絵画におけるアウトサイダーアートのようなものが成立するのかどうかもわかりません。

 しかし、見ていてほっとさせられたり、楽しかったりする作品はあるのではないかと思うのです。先日、ある座談会で一人の出席者から、ある程度書ける人がこういう風に書くと「うけ」がよいだろうといった作為が感じられる書は、見ていてダメだという話がでました。もちろん、作者に障害があろうとなかろうと同じことだと思いますが、何か感じさせる書、けっして作為的ではない書があって良いと思うのです。

 いるかも知れない、いないかも知れない、そんな一人をさがす試みとしても、この展覧会の価値はあるのかも知れないと思います。指導をして下さっている先生方や展覧会を運営していらっしゃる先生方の労力を考えたら、それは気の遠くなるようなことのようにも思えます。一方、そのことはすべての保護者の方や子どもたちの希望であり、教師の意欲の元であり、こうして関わらせていただいている私などの楽しみの源でもあると思えるのです。そして、いうまでもなく、本人が楽しいと感じたり、自信につながることであったりすれば、なおのことです。

 さて、今回は大田ろう学校のGさんに、教育委員会賞が授与されました。Gさんは、昨年に引き続き、蘭亭序の臨書を出品してくれました。継続して取り組むことの大切さを感じます。昨年の作品も印象に残るものでしたが、さらに行書らしい筆づかいになっています。布置章法(字の大小・配置)などを勉強していくと、一層の向上が期待できます。Gさんに限らず、Oろう学校の皆さんは、整った字を書こうとする意欲が強く感じられ、好感が持てます。M養護学校のHさんの作品やI養護学校の皆さん、K盲学校・H養護学校・M養護学校の皆さんも同様です。

 同じM養護学校でも、楽しい作品という点では、たとえばYさんの「ゆきだるま あったかい」やSさんの「ゆき ゆき」をはじめとする皆さんの作品があげられます。お二人は、昨年も「あかいやね」「あかとんぼ」と温かい印象を与える作品を書いていたので、印象に残っています。雪だるまは冷たいものだと思ってしまいますが、Yさんにとっては「あったかい」という印象だったのだなと感じられます。Sさんも雪が楽しかったのかなという印象を受けます。また同様の視点から、T養護学校の皆さんの作品を拝見していると、ひとりひとりの「空」に、それぞれの「月」や「星」が浮かんでいます。

 学校をこえた展覧会の楽しさという点では、S養護学校のOさんの作品とK養護学校のHさんの作品は、同じ「大」という字が書かれていて、どちらも人が大きく手を広げて立っているように見えます。そのとおりで、大という字の元は、人のかたちなのですね。そしてお二人の書かれた「大」の人のかたちはそれぞれで、見ていて楽しいものです。また、N養護学校・G養護学校の皆さんの目標を書いた作品からは、願いが伝わってくるようです。

 今回は、インターネット展で拝見したわけですが、生で見てみたいという気持ち、たとえばH養護学校の皆さんやTろう学校の皆さんの工夫を見てみたいという気持ちも残りました。すべての学校・出品者の方については書き切れませんでしたが、賛助出品の皆さんのように多くの方が続けてくださることを祈りつつ、講評といたします。