東京都盲ろう養護学校 第4回書道作品展


インターネット展を拝見して

書道部門講師 押木秀樹(金沢大学教育学部助教授)
 

上記展覧会のページをぜひともご覧下さい!

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 書道作品展としては第四回展の開催、お祝い申し上げます。この陰には、ご本人は もとよりご家族そして先生方の並々ならぬご苦労があったかと思います。頭が下がる 思いです。

 今回、インターネット上で作品を拝見させていただき講評させていただくこととな りました。本展覧会を拝見させていただくのは二回目ですが、この展覧会を知った きっかけは、やはりインターネットによるものでした。私ども地方に住むものにとり まして、中央での展覧会を見ることはなかなかかないません。インターネット上での 展覧会は、距離という壁を乗り越えて、作品にふれることのできる機会となりまし た。

 私どもの大学の卒業生の中にも、北陸地方のある養護学校で、毛筆書写の実践をお こなっているものがおります。彼女とインターネット展を見つつ、次のような話をし ました。北陸でがんばって筆を持っている子どもたちがこれを見て、インターネット まで含めて理解できるかどうかはわからない。しかし、全国でがんばっている友達が いることは知らせてあげたいねと。障害の種類によっては、地方に住む私たち同様、 都心の展覧会場まで足を運ぶのが難しい子どもも少なくないことと思います。では、 その子たちにとって展覧会の開催は、大人たちの自己満足に過ぎないのでしょうか。 私はそうは思いません。自分が苦心して作り上げたものを大勢の人たちが見てくれる、 そして心を動かし誉めてくれるということは、大人でも子どもでもうれしいものだと 思います。会場まで出かけられなかったとしても、全国の人たちが見てくれるイン ターネットに自分の作品が載っている。そして全国の人たちと同じように自分もその 作品を見ることができる。そのことは、よろこびと同時に、大きな可能性となるよう に思うのです。

 ネットワークの普及が在宅勤務を可能とし、勤務先への移動に困難がある場合の障 壁を取り除く可能性があると言われるのと同様のメリットかと思われます。逆に障害 がある人をうちに閉じこめてしまう危険性があるでしょうか。少なくとも、今回の展 覧会について言えば決してそうではないと思います。書は書かれているものが字とい う抽象的なものであるが故に、線にその人の息づかいが出るといいます。今回の展覧 会を拝見しても、優れた書家が技巧的に作り上げたものとは違う、息づかいが感じら れるのです。もちろんインターネット上では、直接見たときのような強い迫力を感じ ることはできません。インターネット上で見て、ぜひ実際の会場に行って見たいとい う強い気持ちがわき起こったとすれば、実に大きな出来事と言えるでしょう。私自 身、次の展覧会は何としても会場へ足を運びたいという思いでいるのですから。この 様々な壁を越える、もしくは壁を乗り越えたいという欲求を生じさせるインターネッ ト展の継続を切に願うものです。

 さて作品について、全体もしくは個々の講評をするスペースもなくなってきまし た。最後に、作品のめざす方向についてふれておきたいと思います。障害により、指 導目的によりその方向はさまざまかと思われます。小平養護学校の「掬水月在手」 は、健常者の展覧会でも上位に位置づけられるであろう秀作です。これに類するもの として、村山養護学校・板橋養護学校などがあげられ、いずれも伝統的な文字を書く ことをめざした努力が感じられます。一方、八王子東養護学校の「おじいちゃんげん きで…」や学芸大附属の作品などは、実に生きていることに根ざした雰囲気が感じら れます。このさまざまな方向をめざした作品づくりと指導が本展の特徴であると思い ますし、今後ともそれぞれの方向での指導に尽力いただけることを心より期待い たします。子どもたちにとって、文字に対する意識の向上、そして感性を高めること で生活が豊かなものとなりますことをお祈りいたします。


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