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書の個性とレベル(第二十九回展に寄せて)

顧問 押木秀樹

 金沢大学書道部学外展にご来場いただきまして御礼申し上げます。

 第二十八回展にご来場いただいた方からいただいた感想で、最もうれしかったことは、「この書道部は何人の先生が指導しているのですか?」という質問であった。私の答えは、「仲間やOBが互いにアドバイスをすることは良くありますが、仮にも指導者と呼ばれるのは、私一人です。」である。

 なぜ、うれしかったか。もちろん、自慢話をしようというのではない。それは、部員そして私の目指している方向だからである。身近な誰かの書を模倣すること、たとえば手本をもらって書くということは、作品のレベル向上につながるであろう。しかし、自分の書きたい雰囲気の範囲で上達を目指すとなると、それではいけない。仮にある先生のように字を書きたいと希望して、その先生に習うならそれは個人の好みの反映である。一方、学校の書道部の場合、指導者を選ぶと言うことはできない。だから、部員自身も顧問も、一人一人の個性が生かせることを目指すのである。近年、学校教育において一人一人の子どもの字からスタートする書写書道教育という考え方があり、一方古典に立脚しなければ品格のある書は書けないという考え方もある。

 今回の展覧会は、十分な指導がない中で開催され、また個々の力を大事にした結果である。決して見応えのあるものとはいえない。しかし、それに甘えてはいけないという思いは、部員一人一人が持っているはずである。ご来場の皆様、どうかきびしいご叱正と励ましをお願い申し上げます。