雑談

-文字のうまい下手は遺伝するのだろうか?-

押木秀樹   


 「先生、親が字が下手だったから、私の字は直んないよ!」
       とか
 「字のうまい下手って、絶対遺伝ですよね!!」

といってくる学生が、年に1度くらいは必ずいます。果たして、どうなんでしょうか? 少なくとも私は、これに関して答えることができません。少し関係ある話をすることで、かんべんして下さい。


 まず、あるお医者さんとのメールのやり取りを載せておきます。

押木よりN先生へ

 先日、うちの学部のある教官(医学博士)に頼まれてパソコンの設定に
 いってきました。パソコンの方は、NETWARE の設定がおかしくなってい
 ることがわかりました。

 その折、雑談で「私は、どうも親譲りの悪筆で、、」とその先生が
 おっしゃいました。さらにその先生と、「字は、書いて覚える」と
 いう話もしました。小脳の運動の学習のなかで、字を書く運動の
 基礎的な部分も含まれているのではないかという問題です。

 また、すぐれた運動選手の子供がやはりすぐれた運動選手になるのは、
 環境のみでなく、遺伝的要素があるはずであり、書字運動も同様の
 部分があるかも知れないというような話もしました。

 実際、書字運動は複雑ですし、どの筋肉・神経が強く関与しているか
 など、私のような分野の者ではまったくわかりません。国際的には
 学際的な学会があって、運動学的見地から研究している人がいますが、
 それとてもマクロな研究にとどまっている感じです。

 前置きが長くなりましたが、最後にその先生が、マイクロサージャリ
 のプロ、そしてそのリハビリに関する論文(もちろん手や腕の)などを
 見ればなんか書いてあるかもね、、といった趣旨のお話をしてください
 ました。N先生のことが頭に浮かんだ私でした。

 今現在、自分自身そこまで研究範囲を広げられないような気がしますが、
 非常に興味のある問題です。また何かの機会があれば、そういったお話を
 うかがいたいと思います。

N先生より押木へ

 手の外科を専門とするものの立場からお話しさせて頂くと、仰るとおり、
 大脳皮質ー小脳ー末梢神経ー筋 という一連の流れの中で考えなければ
 なりません。が、我々の専門では、末梢神経より遠位の話しか取り上げられ
 ないのが実状です。あまりにもファクターが多いのと、脊髄より上位レベル
 の話が専門外領域になる事があり、重要性は認識されつつも手を着けられて
 いないのが実状です。

 逆に、神経内科や脳外科領域では、私たちの得意とする末梢神経から遠位
 について苦手としているようですね。
 いずれにせよ、現時点ではほとんど何も分かっていないと思います。

 私も、違う分野のプロの方とお話するのは大変勉強になります。
 是非、いろいろ教えていただきたいです。
とのことです。



 まず、現在のところ、ミクロ的な部分からこの問題に対する答えを求めるのは無理なようです。ただし、おおざっぱな実験・検証作業は、できるでしょう。

 たとえば、子供の書いた字と、その親の書いた字を集めます。あまりいろいろな条件に左右されないように、大量のデータが必要だと思います。

 まず考えられることは、多くの人にそれらのうまい下手を点数化してもらいます。そして、個々のデータごとに平均を取っておいて、親の点数と子の点数に相関があるかどうかを求めるのです。

 また、データはあまり多くできませんが、親の字グループと子の字グループに分けておいて、それから似たもの同士組み合わせるという実験もおもしろそうです。親の字と子供の字はにているのでしょうか??

 さて、何だかこれでわかりそうになってしまっているあなた。気を付けて下さい。というのは、この実験では、親の字と子供の字に関係があるかないかについて、ある程度目安になるはずです。しかし、それが遺伝なのか、学習なのかはわからないということにも注意しておく必要がありますね。

 さて、誰かこの実験をやってみませんか? 難しくないですよね! うちの学生にも是非やってもらいたいと思っていることの一つです!

(1997.06.01)



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