カタカナの「ヒ」と漢字の「匕」 Date: 2006-06-18 (Sun) 
 カタカナの「ヒ」の1画目は、左から右に書く。一方、小学校1年生で学習する「花」の「匕」の1画目は、右から左に書く。本稿では、前者を「ヒ」、後者を「匕」としておきましょう。さて、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。

 まず、これらの違いについて確認してみましょう。
 小学校で学習する字の基本となるのは、学年別漢字配当表でした。これをみると、「花」は「右から左」のように見えます。カタカナ「ヒ」の基本となる字形・字体は、何を参考にすれば良いのでしょう。その点は、別稿でひらがなについて述べているのと同様に、現在参照すべきものがありません。ただ、現在の小学校用教科書のカタカナ「ヒ」の字形は「左から右」と判断できそうです。
 ちなみに、小学校で学習する漢字のうち、同様のパーツ・部分形が用いられているのは、以下の文字になります。
  1年 花
  2年 北
  3年 化 階 死
  4年 貨 老
  5年 混 態 能 比
  6年 疑 背 批 陛
これらについて、学年別漢字配当表を確認すると、「ヒ」のように見えるものは「階 比 批 批」の左部です。「態 背」については不明確ですが、それ以外は「匕」のように見えます。

 このような似た字体構造を持つ文字なのに、なぜ、書字する際の<向き>を逆にしなければならないのか。またご存じの方も多いと思いますが、カタカナ「ヒ」の字源は、漢字の「比」ともされています。

 元になった「比」の字形について確認してみたものが、図になります。「比」は、上段の甲骨文〜小篆、広義の篆書の例をみてわかるとおり、人の象形からできています。小篆では、左右というよりも、縦画のように書かれていて、さすがに下から上に書いたということはなさそうです。2段目の隷書の例でも、左から右へと書いていることが推測されます。それは、3段目の楷書の例でも同様であり、楷書と字体構造が類似する行書の場合、連続線からそのことがはっきりします。

 このように考えてみますと、カタカナの「ヒ」の1画目が左から右であることが問題なのではなく、「匕」が右から左なのはなぜかという方が問題になりそうです。図の例では、明朝体のみが「右から左」となっています。このことからすると、印刷用字形としてのデザイン上から、同じ部分形を二つ並べるのではなく、右側を変化させてみたという理解が出来るかも知れません。このことは、もう少し多くの漢字字形を調べるとともに、カタカナの訓読補助としての用法を中心に日本の訓点資料なども調べてみると良いだろうと思います。

 ただ、文字を書くことを専門にする立場からすれば、漢字書字に多く見られる運動パターンとしての「+」型の運動パターンの方が、右から左への運動パターンにくらべ運動が用意であることが予想されます。そのことから、漢字のパーツとして「匕」にこだわることが気になってしまうのです。

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