<パソコンとインターネットで広がる書の世界> 第6回

パソコンで作る私だけの手本(2)


はじめに

 前回は、王羲之の字を使って半切の「春眠不覚暁」というお手本を作ってみました。パソコンを使うことの便利さがおわかりいただけたでしょうか。ただ問題点として、いくらパソコンで便利に切り張りできるとしても、法帖から字を集めるのは大変だということと、行草作品の場合など特に前後の文字との関係でしっくりこないということが残されていました。今回は、これらの問題をクリアする方法を考えつつ、半切二行のお手本作りにチャレンジしてみたいと思います。

パソコン書道字典を作る

 普通に紙を切り張りして雛形を作ることを考えても、字典を使った方が法帖から一字一字探し出すより簡単です。また、紙のカードなどを用いて、ご自身で字を集めていらっしゃる方もあろうかと思います。今回、金沢大学国語教育専攻の学生が、パソコン上に貼り付けたカード、いわゆるデータベースをを作ってくれました。印刷のため少々現物とデザインが異なりますが、図がそれです。さっそく使ってみましょう。

 まず字を探します。普通の書道字典は、部首による分類のもと画数順に文字が並んでいます。しかし案外、部首・画数ではなく巻末の音訓索引を用いていらっしゃるかも知れませんね。それでは、パソコン書道字典で「花」という字を引いてみます。データベースのカードの「部首」というところをクリックし、「くさかんむり」と入力します。画数順に見ていけば、見つかります。次に、音訓だとどうでしょうか。たとえば、「訓読み」というところをマウスでクリックして、部首の時と同じように「はる」と入力すれば、「貼る」などと混じって「春」のカードが選択されます。もちろん、そんな面倒なことをしなくとも、最初の図の左上の文字をクリックして「春」と漢字で入力するだけで、「春」という字のカードが選ばれてくるのですけど。  
 そうです。紙に印刷された字典や紙のカードと違って、いろいろな探し方が可能で、いちいち索引を引く必要がないというメリットがあることがおわかりいただけたかと思います。また、右図のような方法で、「王羲之」の書いた「夜」という字を調べたい、「宋」代の書家の字で「春」という字を引きたいといった探し方も可能ですね。



さあ貼っていこう

 それでは、半切二行の作品を作ってみることにしましょう。今回は、Adobe Photo Deluxeという比較的安価なソフトウェアを使ってみました。そして、まず最初に作ってくれるのは、条幅作品など書いたこともないという学生2人、中居さんと高木さんです。

 まずは、先ほどのパソコン書道字典、データベースから文字をコピーします。もちろん、コピー機など必要ありませんね。文字をクリックして、「コピー」というところを選べば良いだけです。そして、前回と同じように用意したパソコン上の白紙の上で「張り付け」をクリックするのです。
 こうしていったん貼り付けた文字を、半切の比率に貼り付けていきます。

初心者でもここまで作れる

 このようにして貼り終わったものが、右の図です。一つはとりあえず貼っただけのもの、もう一つは、条幅未経験の学生が修正を加えたもの、そして最後は書を初めて2年ほどの学生、小川さんと田中さんがさらに修正を加えたものです。どれがどれかおわかりでしょうか。左が貼っただけ、真ん中は条幅未経験の学生によるものです。字の大きさを整え、中心を揃えようとした様子がよくわかります。さらに、書の経験がある学生が直したものが右になるわけですが、この違いはわかりますでしょうか。大きさ・中心の微調整に加え、字間にも気を配っていることが見て取れますね。しかし、よく見るとそれだけではありません。いろいろ手を加えているのですが、特に「眠」と「不」の二字に着目すると、かなり違っていることがわかります。いったい何をやっているのでしょう。

欠けたところは自分で書く

 さて、石碑の文字などでは欠けていることも少なくありません。今回、実は真ん中の雛形ができる際に、うっかり「眠」という字の下部を消してしまっていたのです。この部分を田中さんが補修したのが右の図です。パソコンソフトの筆と消しゴムを使って器用に直してくれています

形を変えてみる

 次は、「不」という字の形の問題です。先ほどの貼り付けただけのものでは、前後の文字との関係で違和感がありました。そんなときは、文字の回りを囲んで四隅をマウスで引っ張ります。今回は、小川さんが右上と左下との対角線を引っ張ってくれました、その結果が右の図です。条幅の勉強を始めたばかりの人にとっては、これを作る過程自体が楽しい勉強になるのではないかと思います。



落款を入れて完成

 さて、このようにして初めての学生4人が、試行錯誤しながら1時間の奮闘の結果ができました。最後に別に用意しておいた落款を入れて出来上がりとなりました。初めてでも短時間でこれだけできるのです。

 なお、今回使用したソフトウェアもごく一般的なものです。パソコンがあればどなたでも試してみることができるでしょう。ただし、パソコン書道字典の方はあくまで学生らが作った試作品に過ぎません。とっても便利なパソコン書道字典ではありますが、現在市販の字典のレベルまでにするには個人では難しいかも知れません。できたら、市販されることが望ましいと思います。こんな便利な書道字典が早くできてくれることを祈りつつ、次回に続けたいと思います。


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