<パソコンとインターネットで広がる書の世界> 第3回

書のバーチャルミュージアム


はじめに

 連載の第一回に、「コンピュータの世界は進歩がめざましいため、おそらくこの連載も変わっていくだろう」と書いたのは、数ヶ月前のことでした。やはりそのとおり、新しい情報が次々寄せられています

 その一つはほんの二ヶ月前に紹介したばかりの「五十嵐康子書道展」のインターネットのページです。パソコンでご覧になった皆様の中には、驚かれた方も少なくないことと思います。ご覧になれない方のために、ほんのちょっとご紹介しておきましょう。


インターネット上のバーチャルミュージアム

 先月号が出た頃まで、五十嵐さんのページも他のページと同じように、パソコンの画面の中にちょっと便利な作品集があるという感じでした。それが新しいページでは、パソコンの画面の中に部屋があるのです!? ページを開いただけで、本当の展示室を窓から覗き込んでいる感じがし、視線を動かすかわりにマウスを動かすことで、展示室内で作品を見渡しているような感じがするのです。気に入った作品があったら、その作品をマウスでクリックしてみましょう。すると、その作品を大きく見ることや、作者による解説だって読むことができるのです。
 まさに展覧会場にいるような感じ。これが、今はやりのバーチャルリアリティ。そう仮想現実美術館、バーチャルミュージアムなのです。今回は、これとCD-ROMに関連する話題を中心にお届けしたいと思います。


CD-ROM って何?

 さて、もう一つニュースをお知らせします。中国の人民美術出版社より『中国美術・文物CD-ROM』というシリーズが発売されるそうです。その中に、「中国歴代芸術(書法篆刻編)」というものが含まれています。もしCD-ROM(シー・ディー・ロム) をご存じないとしても、この題名を見たら「何だろう?」と思われる方が多いでしょう。
 CD-ROM とは、図のようなものです。音楽を聴くときに使うCDと同じ形をしていますが、中身はちょっと違います。パソコン用のデータが入っているのです。データってなんですか? そうですね。文章が入っていたり、音や写真、はたまた動く映像が入っていたりします。パソコンとこのCD-ROMがあれば、書や篆刻などの作品や現代作家なら執筆しているシーンまでをパソコン上で見ることが出来るわけです。


CD-ROM はどこがいいの?

 「なにもパソコンを買わなくても、本で見ればよいでしょう?」 という方もいらっしゃることでしょう。そのとおりです。現在、パソコン上で見るよりも紙に印刷した方が、よほど本物に近く見えます。ではなぜ、CD-ROMなどにするのでしょう?
 たとえば、図のCD-ROMの場合、国語・英和・和英・類語辞典など、1枚に12冊の辞書が入っています。そう、場所をとらないということなのです。なにせこの一枚に百科事典だって、おさまってしまうのですから。私などのようにウサギ小屋に済んでいるものにとっては、大助かりです。それでも印刷がきれいな普通の本がいいし、第一我が家は広いから、という方には無意味でしょうか?

 いえ、そうとは言えないようです。だって、あの東大総合研究博物館(http://www.um.u-tokyo.ac.jp/)だって、デジタルミュージアムについて一つのテーマとして取り扱っているのですから。現在、この東大の博物館の内容について、インターネットで見ることもできますが、詳細についてはCD-ROMを購入することを薦めています。民間の博物館の場合、無料で見せるわけにはいかないという部分もありますが、東大の場合はインターネットでは大量の画像データをやり取りしきれないという問題があるようです。また書と同様、日本の伝統的な文化の一つである歌舞伎についてのCD-ROMもずいぶん売れていると聞きます。さて、場所をとらないこと以外に、どういう利点があるのでしょうか?


別冊『墨』がCD-ROMになったら

 その利点の一つは、五十嵐さんのホームページで使ったあれです。詳しく知りたい作品をマウスでクリックすると、その作品が拡大されさらに作者の解説まで見ることができるという機能、リンクについてです。
 このことについて、もし『墨』がCD-ROMになったらということで、仮想現実で考えてみたいと思います。読者の皆さんなら良くご存じの墨スペシャルから『図説 中国書道史』『書のある美術館めぐり』『中国碑刻紀行』の三冊を一つのCD-ROMに入れてみましょう。そうしたらどんなものができるでしょうか。ここから先は、あくまで空想の世界です。私の欲しいCD-ROMを作ってしまうことにしましょう。



見たい作品の選び方

 まずCD-ROMをパソコンに入れると、次のような画面があらわれます。このCD-ROMは「作品で選ぶ」「作家で選ぶ」「地図で選ぶ」「年表で選ぶ」という四種類の方法でページを開くことができます。これらの他にも、書体で選ぶなどさまざま考えられそうです。それでは、一般的なところで「作品で選ぶ」をマウスでクリックしてみましょう。そして、「孔子廟堂碑」と入力してみます。(画面省略)

作品を見て、解説を読む

 すると、次のような画面があらわれます。ここででてくる画面は、おなじみの『図説中国書道史』と同じですね。でも本の場合、孔子廟堂碑が初唐の作品で目次の「隋・唐・五代」の中にあるとわからなければ、索引を見るなどしなければなりません。CD-ROMなら作品名を入力するだけで、見ることができるわけです。
 さて、CD-ROMのメリットはここからです。『図説中国書道史』には、簡単ですが的を射た作品解説がついていますね。解説を読んでいると、その解説の解説が欲しくなることってありませんか? たとえば、作者虞世南について知りたいと思うこともあるでしょう。虞世南の他の作品を見たいことだってありますね。この画面を見ると、西安碑林という名称も出てきます。そんな時、皆さんならどうされますか。
 モノクロの印刷では見にくいかも知れませんが、解説の一部分が青く表示されています。 解説中に出てくる名称「西安碑林」の部分も青く表示されていますので、この青い文字をマウスでクリックしてみます。虞世南の他の作品を見たいなら、右下の「積時帖」というところをクリックしてみます。するとどうなるでしょうか。

 さて、ここから先の世界は次回にご紹介しましょう。試しに「孔子廟堂碑拓本の本物を見るには、どこにいったら良いだろう?」という時を想定してみることにします。幸いこの画面には、「三井文庫蔵」と書いてあり、青くなっていますので、次回はここをクリックしてみるところから始めましょう。



 今回の最後に、もう一度お願いをしておきます。ここまでご紹介したCD-ROMは私の空想のCD-ROMですのでお間違えなくお願いします。ここまでお読みになって、これが欲しいと思われた方もいらっしゃるでしょう。そのためには、実際に市販される必要があります。もし、読者の皆さんのなかで、こんなCD-ROMがほしいといったご意見があれば、どうぞお聞かせ下さい。私の空想の中ならどんどん取り入れていくことができますし、それが現実に結びつかないとも限りませんよね。
 また次号がでるまでの間、どんな動きがあるかわかりません。今回ご紹介した五十嵐さんのページのように新しい情報があったらお知らせ下さい。読者の皆様の声も反映させつつ新鮮な原稿をお届けしたいと思います。


※バーチャルミュージアムの概要については、INTERNET MUSEUM(http://www.museum.or.jp/)でご覧いただけます。ただし、現在のところ書についての情報は筆者の知る限りほとんどありません。


インターネット同時掲載中!

 本稿は、『墨』発売と同時にインターネット上でも見ることができます。ネットスケープもしくは、エクスプローラ等に、[http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~oshiki/index.html]と入れてください。また、ご意見ご感想は、e-mail : oshiki@juen.ac.jp (著者)もしくは coggie@***.***.** (編集)にお寄せください。次回以降に反映できるかもしれません!