以下の文章は、IGS2001において発表した、

について、参考までに簡易翻訳したものです。正確な翻訳ではありませんので、そのつもりでお読みいただきたくお願いいたします。また、研究などに本稿を引用/参照しないで下さい。

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GAIKEI(アウトライン)法による書字能力の測定技術の可能性

Hideki OSHIKI1, Miho OGAWA2

1: Joetsu University of Education, Yamayashiki 1,Joetsu, Niigata, 9438512,Japan / oshiki@juen.ac.jp
2: Yonezawa Higashi High School / zvm06645@nifty.ne.jp

Abstract.

 この研究の最終目標は、手で文字を書く能力を、字形認識・書字技能・書字運動の3点から把握することです。目標を実現するために、簡易的な方法としてGAIKEI(字形のアウトライン)方法が、使用されます。この論文は、その方法を使用した書字能力を把握する実験、および、この方法の可能性について記述しました。 その結果、認識能力および記憶の劣化の推移のデータが試験的に示される一方、この方法の問題は明確にされました。

1. Introduction

 書写(手で字を書く)教育の目標は、日本の学習指導要領で定められ、正しく読みやすい整った字で書けることが求められている。しかし、大人になっても多くの人が、字が汚いことで悩んでいる。この状況において、日本の小学校では、教師が「手本をよく見て、丁寧に書きなさい」と子どもに対して一様に命じるのみであることが問題として指摘されている。 当然、字が汚い原因は、子どもたちそれぞれに、また発達段階によって異なるはずである。その原因の要素は、以下のように分割して考えられる;

 もしそれぞれの子供の書字においてネックとなっていることがわかれば、その原因に即した適切な教育ができるであろう。各能力を正確に知るためには、認知科学の発展が不可欠です。しかしながら、簡易的な方法で、多少のエラー範囲を含んでいても、それぞれの能力の把握する方法を開発することは、有意義である。著者のグループは、GAIKEI(アウトライン)方法の方法論を持っています。 この研究は、その方法を確認し、可能性を検討するものです。

 GAIKEI方法の概略は以下のとおりです; 認識能力は、被験者が字形を見て、選択肢から似た概形を選ぶ実験によって得られます。記憶は、被験者がイメージした字形に似た概形を選ぶ実験によって得られます。 次の実験は、被験者が書いた字形をコンピュータが判断するということです。能力は、これらのデータの比較によって把握されます。  今回の実験では、漢字20文字、120人(小学生から大学生まで)を対象に調査しました。 この方法の有効性は、その実験結果から検討されます。


2.The GAIKEI Method

 現状において、被験者が字形を記憶・認識するの能力を把握する一般的な方法は、研究者が、被験者によって書かれた字形を見るということです。 しかし、この方法では、被験者の運動調整能力(器用不器用)が結果に干渉します。 また、いくつかのタイプの字形を被験者に見せて、被験者が記憶し認識している字形に最も近いものを選ぶ方法もあります。しかし、漢字は複雑なストロークから構成されているため、被験者が想像する字形に対する十分な選択肢を準備した場合、選択肢があまりに多くなってしまい、現実的ではありません。 これを解決する方法は、字形の特徴のうち、ひとつあるいは2つの特徴を選択して、選択肢を作成することです。 この研究のための漢字字形の最良の特徴の1つは、日本でGAIKEIと呼ばれるアウトラインです。

 漢字はストロークを複雑であるため、字形の他の特徴がアウトラインに影響します。GAIKEIは、中国で中世から、手で書く学習における重要なポイントとして使用されてきました。日本の1920年代のKuroyanagiの例は図1で示されます。


 この実験のための26のGAIKEIが作成されました。 (図2) 次に、この実験におけるGAIKEIを認識する方法には、客観性と不変性が必要です。このために、GAIKEIは内藤によって定義された方法によって、コンピューターで処理されます。 このプログラムは図3の手続きによってGAIKEIを選びます。


3.The Model for Acquisition of Handwriting Abilities and its Application

 書字能力は、一般的に書かれた文字の字形の品質、および速度などから評価されます。この実験では、このうち、字形の品質を使用します。 個人の字形の習得および実際的な運用のモデルを、図4のように定義しました。このモデルは、認知科学や脳研究によって修正されるべきものです。 さらに、書字のための記憶は、私たちの書字に対するメタ認知および現在の脳研究、特に特に小脳の機能の研究、の結果から、視覚性記憶および運動性記憶力(認識するための記憶と書くための記憶)に分割すべきかもしれません。 しかしながら、本研究の段階では、2つのタイプの記憶は簡略化のために分割せずに取り扱います。


 この実験におけるGAIKEI方法は、図4に示した字形やイメージをアウトライン(GAIKEI)に変換し、そのアウトラインが比較されるというものです。この実験の中で扱われたデータは、図5で示されます。 各アウトライン(GAIKEI)の比較によって、各能力が比較できるでしょう。


4.The outline of this experimentation

 被験者の数は、小学校1年生(E1)、3年生(E3)、5年生(E5)、中学校1年生(J1)、高校の1年生(H1)、大学生(U)の各々20人、合計120人です。 小学校1年で習う漢字の中から、手本の字形の概形で多様性を持つ文字を除いた、図6に示す漢字20字を用いる。比較のためにエキスパートの字形は、小学校教科書に掲載された字形を用いる。


各グループE1(小学校1年)-U(大学生)の比較において、下記の差異を用いる。

以下、上の表記より(ab)の部分のみ表記する。

5.Results of the Experiment

 字形の品質は、図7の中でtb(太い実線)として示されます。 この値は、エキスパートの文字の概形と被験者の文字の概形の間の差を示し、整っていても個性的な字形などを反映していません。エキスパートの概形と被験者の概形との差は、中学校1年生で増加します。 このデータは、書く速度が速くなるので読みにくい字形が中学生で増加する、という主観的な見解に一致しています。

 被験者が頭の中で想像する字形と、エキスパートの字形との間の差は、図7のta(細い実線)として示されます。 このデータは、表現された概形が、頭でイメージされた概形よりも、エキスパートの概形に近いことを示します。 しかし、イメージされた字形が、不器用な書字運動によって、劣化した字形で表現されることが予想されます。

 このように予想に反した結果となる理由は、以下のように予想されます; 1. 運動性記憶は、視覚性記憶より正確である。 2.被験者は、字形をイメージすることになれていない。3. 被験者は、字形からの概形を選ぶことになれていない。この問題を解決するために、tc(点線)を図7に示します。 この値は、被験者が被験者自身が書いた字形を認識した結果と、エキスパートがエキスパートの書いた字形を認識した結果とを比較したものです。tcの値は、イメージした概形とエキスパートの概形との差を示すtaの値に接近しています。 具体化された字形を見ることによる判断と、イメージした字形への判断とが、近いということは、前述のポイント中の GAIKEIを選択する能力の不足 によって、引き起こされたものであることを意味します。


 この問題は、認識と関連するため、認識に関するグラフを図8に示します。tb(太い実線)は図7と同じデータです。bcとtdは、いずれも、エキスパートの認識と被験者の認識の差を示し、bcの認識対象は被験自身の字形であり、tdの認識対象はエキスパートの字形です。私たちはこの結果を興味深く思います。その一つは、エキスパートと被験者の認識能力(bc)の差が、書字能力の差(tb)より大きいことが、前の結果と一致する点です。もう一つの点は、2つの値はその対象とするものにより、特有の違いを示すことです。エキスパートの字形を対象とした認識結果は、すべての学年において、被験者自身の字形を対象とした認識結果より良い値を示しますが、グラフの形状は、小学校5年生・中学校1年生から、非常に異なるのです。エキスパートによって書かれた字形を正確に把握する能力は大学生まで改善していますが、自身が書いた字形を把握する能力は悪くなります。この結果から得られた第1のポイントは、概形選択能力による誤差がありますが、この方法は、相対的な使用においては有効であろうとということです。 次のポイントは、字形の質が示されたグラフ(tb)、およびそれらの字形の認識能力が示されたグラフ(bc)が、近似することから、この結果が教育にとって有用だろうということです。 日常生活における書字を向上されるための書写教育は、日本の学校教育において中学校以後にほとんど実行されません。 もちろん、この結果を教育に応用するためには、追試が必要です。


 被験者に刺激をあたえた際の、字形への影響は図9で示されます。 tb(太い実線)は刺激なしの場合を示し、te(細い実線)は被験者がエキスパートの字形から選んだ概形が刺激として与えられた場合を示し、tf(細い点線)はエキスパートがエキスパートの字形から選んだ概形が刺激として与えられた場合を示します。 エキスパートの字形は刺激としてteおよびtfの両方に与えられますが、それらは認識(概形選択能力を含む)の要素を含むか含まないかが違っています。したがって、tbとteの間の差は、自分の記憶によってのみ書かれた字形とエキスパートの字形を参照して書かれた字形の違いを示し、teとtfの間の差は、認識(概形選択能力を含む)の不足を補った場合の字形の品質の差を示します。 単に記憶のみによる字形の悪化(個性化が含まれる)は、大学生まで進みますが、適切な字形が示されることによる字形を学習する能力は増加しています。


6.Discussion

 これらの結果は、絶対的に用いるには他の手法が必要であるが、相対的に用いる方法の有効性を示しています。この実験結果を実際的に用いるために、いくつかの問題があります。 この実験の基礎としたモデルの妥当性、および実験方法の妥当性が、チェックされるべきです。 追試験が要求されます。 さらにtbとbcの間の因果関係などのように、細かい部分の問題を見直す必要があります。私たちは、この実験方法の妥当性に関する見解を求めています。


References