書写書道特論レポート

左利きの筆記具の持ち方と筆順の問題

言語系国語コース ****

青字は、授業担当者のコメントです。


1. 左利きの筆記具の持ち方について

 現在アルバイトで家庭教師をしている。その家庭教師先の子どもは、いつも問題などの回答欄の余白に対し、かなり大きな文字を書いている。大きな文字は小さな文字に比べれば読みやすそうなものであるが、たいへん読みにくい。何の字なのか判別しにくいときでさえある。
 また書字しているところを見ると、大変書きにくそうにしているのである。もちろん文字自体が右手で書けば自然なようにできているので、左手で書きにくいのは分かる。しかしそれを考慮しても、書きにくそうなのである。

 なぜかと思って注意深く見ると、筆記具の持ち方がいわゆる正しい持ち方ではないのだ。示指と筆記具の間に空間をつくらない持ち方をしている。
 講義で説明があったように、正しい持ち方でない場合、筆記具に接する指の位置や筆記具の角度についての問題が生じる。その問題について何らかの対処をしながら書字していることになる。正しい持ち方でない場合、正しい姿勢で書字しようとすると、筆記具の先が見えない。筆記具の先が見えないというのは、視覚からのフィードバックがないので字が書けない。
 講義ではその対処法として三つ紹介されていた。一つは上体を左に傾けること。もう一つは筆記具を右に大きく傾け、筆記具の先を出すことで、見えるようにしているということ。最後に脇を開いてノートを傾けること。

 その子どもはというと、最後の脇を開いてノートを傾ける対処法に近い方法で対処している。ノートは傾けていないが、その分、大きく腕を回しこんで書いている。手首も大きくまわしこんでいる。しかし、大きく腕や手首を回しこんでいることが書きにくく見えるのではない気がする。大きく腕や手首を回しこんだとしても、大きな文字しか書けない、細かな書字運動ができなくなるわけではないと思う。
 その子どもの場合関節の機能がほとんど使えないことが書きにくさの大きな原因となっているのではないかと思われる。指先でつまむような正しい持ち方と違い、安定性はあるが細かな書字運動がしにくいと思われる。

 現在、右利きに関しては根拠のあるより正しい持ち方、望ましい持ち方がある。しかし、左利きに関してはほとんどないと言っていいのではないかと思う。日本語の文字自体が右手で書きやすいようにできていて、左利きには書きにくい文字となっている。例えば横画などは左から右へと書くが、右手では書きやすいが左手では書きにくい。右利きの人が右から左へと線を引くのが難しいのと同じことである。左手では書きにくいので、左利きの人は書きにくさへの対処をしなければならない。対処方法としては、正しい持ち方をしていない人が書字する際に行っている対処法のようなことが考えられる。この子どものように左利きでは大きく腕を回しこんだほうが書きやすいのかもしれない。
 このように考えると、右利きでのいわゆる正しい持ち方をそっくりそのまま左利きへ応用すれば良いというような簡単な問題でないことが考えられる。左利きは左利きで、筆記具の正しい持ち方、より望ましい持ち方を見つける必要があると思う。

 海外では、左利きに対処するための持ち方などについて、かなり一般的に書かれているようです。日本ではそこまでいっていないのではないかと思います。調べてみる必要がありそうですね。

2. 筆順について

 先日同じ学年の現職の方から、最近自分の子どもが文字を書きはじめたが筆順がバラバラなので指導した方がよいか、また筆順はそもそもどうしてあるのかなどという質問をされた。

 現在の学校教育でなされている筆順指導は講義であったように、昭和33年文部省編の『筆順指導の手びき』によって行われている。『筆順指導の手びき』の「三、筆順の原則とその指導の考え方」には以下のように書いてある。

筆順指導は「漢字指導の能率を高め、児童生徒が混乱なく漢字を習得するのに便ならしめるため」に行われるものである。

 しかし、どうして筆順指導をするのかという疑問や『筆順指導の手びき』にある筆順が正しい筆順でありそれ以外は誤った筆順であると思っている人が少なくない。どうしてなのだろうか。

 まず考えられることは筆順がテストに出るということが挙げられる。小学校国語の業者の既製品のテストやワークには筆順の問題がある。そのこと以上に大きいのは、やはり公立高校の高校入試に出題されるからであろう。
 『筆順指導の手びき』には、

と書かれている。『筆順指導の手びき』に示された筆順以外も誤りではないのである。
 高校入試に出題されるということは、答えとしての筆順が1通りだけ決まっているということである。まさか考えられる筆順の全てを正解にするはずがない。どうして『筆順指導の手びき』で誤りではないと明示されているのに、答えとして用意された1通りの筆順以外は全て誤りとなるのだろうか。  またテレビでもお遊び感覚で筆順についてやっているものを見たことがある。年末か年始の特別番組だったと思うが、芸能人に筆順の問題が出題されて書道の達人?が正解を言うのである。もちろん正解は1通り。いくらバラエティー番組とはいえ、視聴者は1通りの筆順が正解であり、それ以外は誤りだと信じるに違いない。テレビは何人の人が見ているのかわからない。ちょっとした1コマでもその影響は大きいと思う。

 確かに筆順指導は不要なものではない。『筆順指導の手びき』に掲載されている大原則や原則をある程度覚えれば、漢字を覚えて書くのに便利だろう。しかし筆順の1通りだけを正解とし、それ以外を誤りとすることはかえって良くないことだと思う。
 文字によって歴史的に筆順が何通りか存在するものもある。現在、『筆順指導の手びき』に掲載されている筆順より、通俗的に行われている筆順でそちらの筆順で書く人の方が多いということもあると思う。そういった筆順には、その筆順をより積極的に選択する理由があるはずである。
 『筆順指導の手びき』は昭和33年に編まれたものであって、現在では変更したほうが良い筆順もあるはずである。特に最近は縦書きよりも横書きを多く用いるようになってきたので、横書きでの書きやすさも考慮に入れる必要があるのではないかと思う。
 いずれにしても、一般的には、筆順指導の目的が正確に伝わっていないようである。せめて、まず教師がその目的をきちんと把握すべきだと思う。

 確かに、教える側の教師がその目的を把握し、学習者に伝えることが必要ですね。また、『筆順指導の手びき』の筆順を変更する必要があること、そうかも知れません。