書写書道特論レポート

漢字の保存と廃除について

言語系国語コース 林 俊忠


授業担当者コメント

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 書写書道特論の二回目の授業で、文字ついての事を深く考え 始めた。大学時代に一年間、「文字学」を学んだ通じ、漢字の 起源を初め、漢字の作り方と漢字圏の国々における文字の使用 状況を概念化していた。日本語と接触し、漢字と仮名に出会っ た時の衝撃から、漢字の認知をもう一度確認することにより、漢字 圏の一員としての理解が深まると考えた。 台湾で通用されている漢字について、またよく使用する漢字の 問題を中心にして述べたいと思う。

 まず、漢字の簡体化か繁体化を賛成するか反対するかの問題で ある。漢字を熟知する人々が承知しているように、中国はここ 百年来、漢字が簡略化されており、その段階には二つある。1922 年銭玄同氏は「減省現行漢字の筆画案」を発表し、当時の漢字 について筆画は多く、学術と教育の研究において相当不利にな ると指摘した。保守派の学者達に発布される「一回目の簡体字 表」は一年足らずで、激しい反対に撤回された。

 1956年国務院(中国大陸)は「漢字簡化法案」を通過させ、全 国へ頒布し実施した。1986年さらに漢字の略字を従来の515字 から一気に2236字にしたものが、現在も使われている。漢字を 略する原則には六つ特徴がある。形声・仮借法・会意法・保留 特徴法・符号に代わり、草書体を楷書的字形に変え、古体字を 採用する、俗体字を取るなど今まで用いられる簡体字を作り出し たのである。

 台湾の文字政策はどうであろうか。台湾の教育部長(文部省 大臣に相当する)曾志朗は「漢字は表意文字と認められるが、 漢字を読む過程において言語自身の発音により生じる連想なし で捉えることは、大きな錯誤である」と言明している。その考えを基づ けば、漢字は表音文字と同様に、文字を閲読すると同時に言語 自身の発音を連想する事は当たり前の事ではないかと推測出来 る。

 言語学の理論において、結論の段階のみを論じるのであれば、 漢字の発展はまだ「言葉(word)」と「詞素(morpheme)」の 段階に停留しており、音声の流れに従い、表音文字となら ずにいる。一方、古代の日本人は言語の発音について研究を重ねて50 音という表音文字を作りあげた。有限の50文字だけで無限の言 葉を表現できる。韓国人は日本人に増やして、熟慮を重ね、28 字だけの表音文字で韓国語全ての語彙を表す。

 世界で一番普遍的に使用される書写システムは、英語、フラン ス語、ドイツ語のような表音文字である。しかし、何故中国語 は日本語と韓国語のような表音文字になれないのかという疑問を持つ 人がいると想像出来る。それは日韓の文字が孤立語としての特 質がないからだと答える人もいる。だが同じ言語体系のベトナ ム語(孤立語)も漢字の束縛から抜け、表音文字を作り上げる ている事実があり、何故中国語は出来ないかということは、 疑問視せざるを得ない。

 韓国はハングルを発明する以前、全ての文献が漢字で書かれ ていた。韓国人は漢字の原意を考えず、韓国語の文法の語順で 韓国語を表現する。1433年李氏王朝が訓民正音(Hun Min Jeong Eum)を全国に頒布してから、ほぼ百パーセントハングルを用いて 記している。ベトナムは17世紀にフランスの伝教士A.de Rhodes によって表音文字に作り変えられ始めた。様々に修正され、ベ トナムの文字はようやく中国の漢字から独立することができた 。日本もこのような時代の工夫を経て、万葉仮名の訓読みから 簡略文字を経て、平仮名とカタカナが生みだした。今日本では 漢字、仮名とローマ字の三つを文字系統として併用している 。

 中国の漢字の発展に戻ろう。台湾出身であるアメリカテキサ ス大学言語学学会の会長蒋為文氏は、台湾では漢字の弊害につ いて四点を以下のように述べている。

  1. 漢字が勉強しにくい、覚えにくい:台湾の小学生は卒業す るまで1000字程度習得出来るが、大部分の時間を漢字の練習に 当てなければならないので、最も重要である文学作品と人文素 養の養成は抹殺された。
  2. 漢字という文字が「正統性」、「古典」の権威を持つ階級 性を帯びているので、既得利益者の専属物にされやすい。
  3. 漢字は漢語系の言語文化に関する発展を妨げる。というの は、西欧社会ではルネサンス時期に、方言で書かれた文学が生 み出された一方で、一貫して正統性を保っていたラテン語は、 その地位が破られた(それは古典漢文の地位に当たると推測できる )、そのため、方言文学はその後西欧の各民族の言葉と国民 文学を生じさせた。なぜ東アジアにはこのような言語文字の反発 が興らなかったのか、それは表意の漢字を表すわけで、漢字は 各言語の特色を見事に表現出来ないものであるためである。
  4. 漢字は漢民族の自尊自大を作造した産物である。当時中国 の統治者は漢字を統治の手段として56個の民族を一つの国にし たことは過言ではない。他の民族は全て方言とされて差別され る。

 蒋氏は中国が欧米からの文化・科学などの最新情報を阻むこ とが出来ないので、言うまでもなく欧米の国々と言語文字との 言語接触も避けられないと言う。欧米の文化と接触しなければ ならなかったら、漢字の「孤立性」「表意性」を変えることを 通して、欧米の表音文字に適応させたほうが、大いに役立つだ ろう。

 漢字の弊害は以上の四つだけではない。一番邪魔されるのは その「形」「音」「義」を通じて一文字一文字になることであ る。その一文字三つのデメリットを兼ねる漢字は、更に以下の 欠点がある。

  1. 表音の働きが弱いので、言葉(word)の本当の意味が誤解 されやすい傾向がある。
  2. 多音節語に欠けているためで、言語が自由に発展されない 。
  3. 精確性に欠けているので、語意がはっきり表せない。
  4. 筆画が多い(台湾・香港の繁体字は中国大陸の簡体字より 、わりと多くて難しく書く)、覚えにくく文化の発展を阻害す る。
  5. 字数が多過ぎ、情報化社会に便利でない。

 以上の欠点から考えてみれば、漢字がもたらした事態を明確 的に理解出来るだろう。中国政府は簡体字の改革を実施してか ら、正統性を強調するとともに、政治の独占性と強権を帯びる 態度を持って、世界の中国言語文字の学習を欲する人々に見本 として勉強させている。簡体字の書きやすさと覚えやすさを主 張するが、何故識字率が上がらないのか。

 蒋氏の報告を読めば読むほど、漢字に対しての誇りが少しず つ崩壊されていく。文字で左右される面が想像より大きな影響 を人類に与える。中国大陸は文字政策の改革を鏡とし、台湾の ほうがやはり「伝統を尊重すべきだ」「古典を読むためには繁 体字を学習しないと全然出来ない」「繁体字は芸術性を豊かに 備えるから、中国語伝統の美しさを保てるから」と考える人が 少なくない。台湾では文字の改革がいつか既得利益者に妥協し てもらえ、良い走り出しが出来るだろう。

 私が留学する以前から、地図や地名プレートの漢字の表音問題に ついて教育部(文部省)・民間の教育学者と教師・言語学研究 者は様々な意見を提出しているのだが、結論はまだ出ていない。 中国大陸の表記法を主張する人もいる。彼らは外国人 向けの学習に役立つために、中国語(台湾繁体字)を習う人口 が増えれば、中国語(簡体字)の競争率も相対に強く出来ると 言明している。一方、言語学の立場から保守主義を維持する学 者もいる。彼らの主張は精確の発音に近くなければならないと いった正統性を主張している。このように、現在までも統一に 至っていない。

 文字を知って以来、文字に親しんでいる私は、文字好きから 始まり、文芸創作から言語の起源まで好きになった。将来、文 字に関する学者や仕事に就きたいと思っていた。中国語学科を 経て、日本語学科に入った後、漢字の解読についてまた新しい 領域に足を踏み入れたことを自覚し始めた。日本の当用漢字、 大陸の簡体字、台湾と香港の繁体字、さらに自己流の漢字が氾 濫している社会には、漢字の読み方と書き方は果たして我々に どのようなメリットとデメリットをもたらすのだろう。漢字が もし本当に廃除されたら、どのような影響をもたらされるだろ う。異なる国々同士が簡単に情報のやりとりが出来る現在の社 会において、文字のコミュニケーションに注目したとき、実用 性と芸術性、時代と伝統のどちらかを優先させて考えなければな らないだろう。台湾では文字政策は思想の制約だけではなく、 中国大陸への自己声明を強調する自主性ではないかと考え出し た。この政治の紛争が終わる前に恐らく文字の戦争が一貫して 続けられており、漢字によって引き起こされる様々な弊害も改 善されるに至らないだろう。

参考サイト

参考文献