今、私たちが明らかにしておくべき「文字を書くこと」の疑問

〜2004 ブリッジII「国語基礎研究I」レポートより〜

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 今年度の「国語基礎研究I」の押木担当の2時間については、手で文字を書くことそして書かれた文字における<非言語的なコミュニケーション要素>にスポットを当ててみました。そして、学生から「打つ」ことが増え「書く」ことが減少している現代において、考えておくべきことについての回答を求めました。

 その要点が、以下になります。短時間の授業であり、学生らも十分に考える時間が与えられているとはいえない状況ですが、かなり大切な要素が含まれていると思いますので、ここに掲載することにしました。なお、表現はそのままのものと、私が短くまとめたものとがあります。


感情

・感情、たとえばうれしいときに書いた字と、怒っているときに書いた字とで  違いが出るだろうか。顔のように、文字に表情がでることはないか。 ・先人たちは、単に言語の伝達のみを意図して文字を使い始めたわけではないだろう。  だとしたら、現代の私たちは、何か失いはしないだろうか。 ・手で書かれた手紙は、直接その人と関わっている感じがします。打つだけになった  ら、そんな感じも失われますよね。

脳・心理

・文字を書く行為によって、脳に何らかの変化があるとすれば、それは何か。  他に影響を及ぼさないか。 ・英語圏と漢字圏で、文字の学習および認識がどう違うか。それによって、書くこと  の意味も変わってくる。 ・文字を書いて覚えるという行為は、見て覚える行為に比べ、強い記憶を脳に残す  ことができるのではないか。 ・筆で字を書くと心が落ち着くというのは、たぶん心理的・科学的に見ても、  ありうることなのではないかと思う。そのあたりを明確にして欲しい。 ・文字を書くことによって、感情が整理できるような気がするのですが、私だけ  でしょうか。打つより、書くなのですが。 ・字を書くことは本能的な要素があるのではないか。キーボードだけに頼ることは  それを失うことになるような気がする。

学習・習得

・皆、似たような手本を参照して、同じような指導を受けたはずなのに、ここまで  各人の字が違うのはなぜか。 ・年齢によって字が変わるのでしょうか。最近、自分の字が変わってきたみたい。 ・字のうまいへたは、何歳くらいで決まるだろうか。もしくは、決まらないのだろうか。 ・字のクセは、どの程度直すことが可能なのだろうか。適切な時期はいつで、どの  くらい学習が必要なのだろうか。 ・自身の字形が形作られる過程を、知りたい。何の影響で、どう形成されるのか。 ・漢字を覚えるために、書くことがどの程度必要か。

対相手

・自分の字が他者に対してどのような印象をあたえているのか、知りたい。 ・e-mailより、手書きの手紙の方が、相手のイメージがより鮮明に浮かぶ理由について  科学的に明らかにすべきである。 ・コミュニケーションの場合、相手に対する感情で字が変化したりしないか。

認識

・文字の字形等に対する印象は、見る人の主観によって、どの程度異なるのだろうか。  ある字をうまいという人がいたり、そうでないという人がいたりするわけで。

字形

・うまい字と、読みやすい字は近いと思うが、同じではないだろう。その関係を  知りたい。 ・書く際の用途(レポートとノートなど)によって、字はどのくらい変わるものか。 ・字の印象は主として、どこから伝わるのか。どこから受け取るのか。 ・クセや個性があっても、読みやすい字とか美しい字があるわけですが、それは  どのようになっているのだろうか。 ・レイアウトによっても印象が違うと思うが、どの程度どのように影響がでるか。 ・文字は素材によって字形を変えてきたが、鉛筆とシャープペンシル等でどう違い  がでるか。 ・読みやすい字を書きたいのだが、どうしたらよいだろうか。 ・黒板の字を良くするには、どのような学習が大切か。

その他

・どうして日本人だけ、こんなにたくさんの文字体系を使うようになったのだろうか。 ・平安時代は歌のやりとりで、本人の字をみて相手を判断したのではないか。これは  実は根拠があることなのではないだろうか。 ・書写の指導は、用途によって書くことを変えていく指導をすべきだ。 ・書写では、シャープペンシルよりも鉛筆が良いと聞いたのですが、それはなぜで  しょうか。 ・文字を書くことを嫌いにするような教育がなされていないか、確認すべき。

付随する意見

・日本以外の国々では、文字を書くことについて、どのように思っているだろうか。 ・子どもの頃から筆順を無視して字の練習をしてきた自分だが、そのせいで字が  きれいに書けない気がする。本当のところは、どうだろうか。