誰にでも見やすい字? 

2001.09.07

押木秀樹

 

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 この質問に対しては、(少なくとも大学生以上の方に対しては)、
かなり慎重に考える必要があり、また一言で説明できるものではない
だろうと思っています。

  1. 見やすい字・読みやすい字・きれいな字 > 「誰にでも見やすい字体、または書き方はないのか」と。  まず、「見やすい字」ということについては、「読みやすい字」というイメージ で考えている人と、「見た目に美しい字」というイメージで考えている人とが いるようです。この2者は、相関は高いと思われますが、同一のものとして 考えることはできないだろうと思うのです。
  2. 字体と字形 次に、「字体」とのことですが、この場合は「字形」の意味で考えて良いでしょうか? 字体と字形の定義には若干ゆれがあるようですが、私は、 http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/jyugyo/shoshakiso/moji.html (論文:http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/ronbun/kiso92/houhou92.html) のように考えています。
  3. たとえば世代と字の好み そして、「誰にでも」について、少なくとも私どもの研究からも「読みやすい字」に 対する世代差があります。ですから、字形に対する好みはいろいろあろうと思います が、そのなかでも<比較的>万人向けに、ということになるかも知れません。 (http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/ronbun/Kankaku2000/)
  4. とても難しそうです 以上のように考えると、難しい問題のように思うのです。そのような字形が わかり、その次に、それをどう書いたら良いかということを考えなくてはなら ないと思います。 確かに、私どもの研究室でも、実験的なことをやりつつ、「読みやすい字形」 「美しく感じられる字形」というものを考えつつあります。しかし、その全容 をあきらかにすることは、気の遠くなるようなことのようにも思います。
  5. これまでの字形から探る方法 一方、もっと簡単に知ることができないかと考えたとき、<これまで長い歴史 の中で多くの人に支持され、学習対象とされてきた字形>は、ばくぜんとですが 望ましい字形であると考えることもできると思います。いわゆるお手本のような 字がそれだとしましょう。そうしますと、そのお手本のような字が持つ特徴を 検討していけば、何か出てくるはずです。 そのようにして、抽出された内容を元に、現代の書写教育はおこなわれて(おこな われようとして)います。比較的低価格な本としては、 『書写指導 小学校編』『書写指導 中学校編』/萱原書房 (一部:http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/jyugyo/shoshakiso/form1.html     http://www.shosha.kokugo.juen.ac.jp/oshiki/jyugyo/shoshakiso/form2.html) などがありますので、ご参照下さい。この中にも、整った字形のための要素(ポイント) が書かれています。まだ十分に抽出できているとはいえませんが、とりあえず参考に なるのではないかと思います。
  6. 個性と整った字 ただし、ここにあげられているのは、「整った字」という一つのイメージからの ものです。いわゆるお手本のような特徴どおりでなくても、「読みやすいと感じ られる字」「美しいと感じられる字」というのはあるはずです。そのような字は どのような要素を持っているかということについては、まだ研究途中といって 良いだろうと思います。 そういった字形について研究してくれる人がたくさんいると良いのですが、 他の分野にくらべ研究室も少なく、なかなか進まないというのが現状かと 思います。

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