全日本書写書道教育研究会 長野大会報告

押木秀樹


 

 

 第三十九回を数える全日本書写書道教育研究大会(略称:全書研)が、長野市の裾花小学校・川中島中学校・長野高等学校などを会場に、九月四日・五日の両日開かれた。

 今年は「生きる力を育む書写書道教育」をメインテーマに、小学校部会は「基礎基本を大切にし、生き生きと取り組む書写学習」、中学校部会は「意欲的に学び、豊かな文字感覚を育む書写学習」、高校部会は「主体的に学び、豊かな感性を育む書道教育」、大学部会が「書写書道の充実をめざす教科教育のあり方」の各テーマのもと、公開授業や活発な討議が行われた。筆者は、中学校・高等学校における授業の見学と全体会に出席することができた。これらを中心に報告する。

小学校部会については、裾花小学校による研究冊子が興味深い。同校は、

の三点を目指した書写指導をおこなっている。授業研究に当たり、児童の実態調査からスタートしているわけだが、このアンケート自体が重要な示唆として受け止められる。たとえば、「書写の授業はすきですか」の問いに対して、「好き」と答えた児童は、一年八十四%、三年四十二%、六年二十%とそれぞれ二年で半減している。それに対して、「字が上手になりたいですか」という問いには、一年八十九%、六年九十一%とほとんど変わりない数字がでている。この数字を踏まえた実践をおこなっている同校であるが、筆者自身も、字が上手になりたいという意欲を満たす書写教育であらねばならないと痛感した次第である。

 中学校部会では、坂田和弥教諭の硬筆での実践を見学した。この授業を要約すると、

というものであった。似た課題をもった生徒同士が相談することもおこなわれ、普段から「自ら課題を解決する書写」の授業が定着している様子がうかがわれた。たとえば、ある生徒は行書の学習をおこなっていたが、既習の内容を教科書から参照し自分の力で行書が書けるようになる取り組みをしていた。また、ある女子二名は、はがきの宛名の住所を、一行で書くべきか二行で書くべきか迷っていたが、それぞれが試しに一行と二行とを書いてみて書き上がったものを比べ、良い方を選ぼうとする工夫をおこなっていた。手本をまねるのでもなく、教師に頼るのでもなく、自ら学習を進める様子に大変好感を持った(写真参照)

 長野高校における小出教諭の授業は、隷書の導入として、隷変の意味を理解して書くという実践であった。なぜ篆書から隷書へと移り変わったのか、その理由を踏まえた上で書くという理解的側面を重視した授業と言えよう。書道教育において、つい軽視しがちであったり、付け足し的になりがちと言われる理解領域であるが、生徒の「なぜ?」という気持ちを満たし、さらに「だからそう書くのか!」という気持ちを引き起こす必要性を認識させるものであった。

全体会での講演として、今回は元文部省視学官・現大東文化大学教授の久米公氏が「生きる力を育む書写書道教育」と題した講演を行い、出席者に強い印象を与えた。「生きる力」の意味、「ちびまるこちゃん」中に見られる書写のイメージ、そして戦後まもなくに出版された上條信山『書道の単元学習と評価法』の重要性から話は始まった。「単元学習↓手本中心の学習↓系統学習↓系統学習を生かした単元学習へ」という流れにも関わらず、手本中心の学習に終始している観のある実態に対し、五十年間の遅れを痛烈に批判したものと、筆者には受け止められた。

 来年度の全書研大会は、埼玉にて開催されることが決定している。更なる充実を期待して、長野大会の報告をしめたい。

(石川県書写書道連盟 会報10号原稿より)