金沢大学教育学部 押木秀樹
一方、小学校の書写で毛筆の指導をしていらっしゃる先生からご質問をいただくことがあります。「筆を持つとき、ひじをあげるべきですか、下げるべきですか?」ということです。おそらく、塾に行っている児童生徒で異なったり、一人一人の癖の問題もあるのでしょう。
さてそれでは、肩から肘にかけての姿勢、構え方はどうあるべきなのでしょうか。本稿では、書写指導を苦手とする人を対象として、この点について考えてみたいと思います。結論を先に申しますと基本的には、その子、その人の書きやすい姿勢で書けば良いのではないかと思います。また、書家を養成する場合などは、必ずしも書きやすい姿勢で書いた方がうまく書けるとは限りません。この後の話は、ごく一般的な場合を考えてみたいと思います。
やはり字を書くのですから、自然な姿勢、長時間書いていても疲れない姿勢が大切だと思います。その意味では、右の図のどちらが適していると思われますか? 私は、右の方が自然だと考えます。私たちが適度な高さの机に向かって、硬筆筆記具で字を書く姿勢も右ではないでしょうか。私は、毛筆で字を書くときも基本的には同じなのではないかと考えています。合理的な方法で、学習すべきだ言い換えることもできるでしょう。
繰り返しますが、芸術的な書の作品を書く場合はこの限りではありません。ですから、塾などで書家の卵を養成する場合などは、肘をあげた書き方を教えるのも誤りとは言えませんし、それが書きやすいという人を無理に矯正させる必要もないと思います。一方、義務教育では、この問題は大事ではないかと思っています。というのは、現在の国語科書写の目標は、原則的には<実用のため>といっても良いと思います。とすれば、毛筆で学習した内容が硬筆にも生きるものであって欲しいと思います。ですから、毛筆の学習を特殊なものと位置づけるのではなく、自然に硬筆とつながるものであって欲しいと思うわけです。その意味からも、硬筆筆記具で書くときの構え方、上の図では右側の構え方で、毛筆学習もおこなうべきではないかと思うのです。
右図上の斜線のところに硯がありませんか? 大人の皆さんでも、子供の頃に袖を汚してしまった経験があるかも知れません。しかし、ある程度の年齢になると、身体の各部の位置を無意識にチェックしているのでしょうか、袖を汚す人は少なくなります。そのかわり、次の図のように肘をあげることで硯を避けている人が多いように思われます。
もちろんこのような書き方になれきっている人には、何の問題もないでしょう。しかし、初心者や普段ごく自然な構え方をしている人にとって、このことは不安定になる原因になると考えられます。
小学生用の習字セットにもいろいろな工夫が凝らされたものがあります。写真右上のものは、どうしても肘があがってしまう位置に硯が来てしまいます。それに比べて下のものはその心配がありませんね。もし、上のような場合でも、すり減った消しゴムなどを、筆の下の方に挟むなどすれば対応できますから、心配はいりません。ちなみに写真左上の学校でも、こういった工夫をしていることがうかがえます。
まとめとして、私たち自身、また子供たちには特に、練習しやすい状況で練習させてあげたいと思うわけです。また、悪いところを注意するのみでなく、その原因・理由から対処していくことが必要だと思われます。机が狭いということも問題ですし、硯箱の形も問題かも知れませんが、工夫することで何とか乗り切っていきたいものです。